混迷する組織の問題を解きほぐす
座標軸としての目的工学
組織の大小や業界を問わず、実に多くの企業や政府機関・自治体で、組織の機能不全と変革の必要性が叫ばれています。これは様々な要因が絡み合っていますが、真因を一つあげるとすれば、本書が指摘する「目的と手段の入れ違い」や「部門間の目的の不調和」にあるのではないでしょうか。
組織や個人の売上げ、コスト削減、技術開発など、目先の「目標」への過剰な注目は、構成員の士気を喚起しにくいばかりでなく、不毛な部門間対立や調整業務を増大させ、最終的には競争力に乏しい製品やサービスを世に届ける結果になりかねません。目標の大前提としてあるべきはずの、「社会のために」などの大義(共通善)と目標との結びつきが、多くの組織で失われていないでしょうか。
「何のために自組織は存在するのか」「どのような価値を社会に届けるのか」、という大目的に立脚して組織が運営されていなければ、イノベーションは一向に生まれず、活動はますます非効率になってしまうでしょう。なぜなら、社会的価値、社会課題に立脚しない活動から生み出される製品・サービスは、結局のところ「驚きのないもの」に留まるからです。
振り返って考えてみると、世界銀行で進められている知識経営、組織変革の取り組みも、連続的な目的のマネジメントであると言えます。さまざまな小目的やタスクを連携させ、関わる全員の行動・マインドを「貧困のない世界の実現」という大目的に向かわせることに、その本質があることは間違いありません。
一方で、これまで「目的のマネジメント」は、一握りの偉大なリーダーによるアートと見なされてきたように思います。たとえば、人を心の底から鼓舞する経営哲学と、額縁に飾られているだけの経営理念を分けるものは何か。少なくとも字面だけを見れば、ほとんどの場合、両者に決定的な差はありません。
あるいは、「消費者のより良い生活の実現」など抽象度のきわめて高い社会善(大目的)と事業のゴール、月次レベルの個人・組織の目標をどう結びつけるのか。それらの関係性が正しいかどうか、どう判断すればよいのか。
これまで、こうした問いに対する羅針盤となるものはありませんでした。多くの組織のリーダーやメンバーは、「目的のマネジメント」ということすら考えずに、組織運営をしてきたのではないでしょうか。本書が出版され、目的工学が提案されたことで、明確な座標軸が与えられたことを喜ばしく思います。
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『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのかーードラッカー、松下幸之助、稲盛和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則』
アインシュタインも語った――「手段はすべてそろっているが、目的は混乱している、というのが現代の特徴のようだ」
利益や売上げのことばかり考えているリーダー、自分の会社のことしか考えていないリーダーは、ブラック企業の経営者と変わらない。英『エコノミスト』誌では、2013年のビジネス・トレンド・ベスト10の一つに「利益から目的(“From Profit to Purpose”)の時代である」というメッセージを掲げている。会社の究極の目的とは何か?――本書では、この単純で深遠な問いを「目的工学」をキーワードに掘り下げる。
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