さらにもう一つ、そして今回裁判所がわざわざ、海外からのオンラインによる出廷を認めた最大の理由は、余被告が2019年6月に妊娠中だった妻の王さんを、タイ・パーテーム国立自然公園の崖から突き落とし、殺害しようとしたとして服役しているからだった。
タイで働いていて知り合い、結婚した同郷の男性は前科者だった
王さんは1987年、江蘇省南京に生まれた。大学で旅行ビジネス管理を学んだ王さんは、地元の旅行会社に勤めた後独立し、20代後半でタイで民宿やレストランの経営に乗り出して大成功。さらに中国との貿易会社を経営するようになった、タイで忙しい日々を送っていた2017年、友人のパーティで一つ年上の同じ江蘇省出身者の余被告と知り合う。彼は懐かしい地元の方言で、国内で起業したものの失敗し、タイで再起を図っているところだと王さんに語った。
その日から余被告の積極的なアプローチが始まった。SNSを通じておしゃべりを繰り返すうちに、王さんの生活リズムや好みをつかんだ余被告は、仕事に邁進(まいしん)する彼女の送り迎えをしたり、彼女好みの店へデートに誘ったりした。王さんは、余被告の積極性に驚きながらも、家の外まで送ってきても家に入ろうとしない彼に好感を持ったという。
王さんは出会ってからわずか2カ月で2回目となるプロポーズを受け入れ、南京に戻って結婚の届け出をする。だが、結婚してから分かったのは、余被告はギャンブル好きで、すでに100万元(約2000万円)もの借金を抱えていたことだった。王さんは借金の返済をして、ギャンブルを止めるよういさめ、余被告もそれを聞き入れた……はずだった。
だが1年後、会社の会計士から「あの500万元(約1億円)はどうしたの?」と尋ねられた王さんは、余被告が夫婦2人のIDカード、結婚証明書、パスワードを使って、会社の口座からお金を引き出したことを初めて知る。そのまま姿をくらました余被告を警察が連れ戻したとき、さらに王さんは、夫がその昔、中国で強盗窃盗罪で12年の有罪判決を受けて服役したことがあると知らされたのだった。
しかし、余被告が首を垂れ、「ギャンブルで500万元をスッてしまった」と涙ながらに謝罪する様子を見て、王さんは彼を許すことを決めた。