これが仮に競合の日本の軽EVよりも安い250万円程度で発売され、補助金が60万円程度、ディーラー値引きも加えて180万円程度の実質価格になれば、地方市場で売れる可能性は十分にあります。

 そして地方でディーラーがまずBYDの軽を売って、知り合いで乗っている人がちらほら出てきたとしたら?そうなるとついに、スーパーのイオンの店頭でも自動車が売れ始める前提条件がそろうことになります。

 そしてトレンド的にはその可能性を後押しする状況もあります。

 実は世界市場と比べるとBYDは日本ではそれほど売れていません。そもそも新車販売に占めるEVの比率は2%未満です。世界平均が20%を超えたのと比較すると、日本ではEVはほとんど売れていないというのが現在の状況です。この状況がホンダのN-ONE e:の登場で変わり始めています。

 これまでの日本でのEV販売台数のかなりの部分が日産のサクラの台数でした。ところが直近ではN-ONE e:がサクラの倍のペースで売れているのです。

 これまで周囲にEVに乗っている人がそもそも少ないので、EVを買ってもいいかどうかの段階で消費者は不安を感じます。その中でさらに中国製の車に安全をゆだねていいのかということなのでBYDは売れないというのがこれまでの状況です。

 ところがEVの比率が高い欧州では日本人が驚くぐらいBYDが売れていて、新車購入の際の選択肢に普通に入ってくるのです。家電と同じで、ある程度使う人が増えてくると急速に中国製であることへの不安がなくなってくるという現象が欧州ではすでに起きているのです。それがやがて日本でもトレンドになるはずです。

 日本ではBYDの販売台数(新規登録台数)は1~9月で3000台弱です。海外諸国と比較すればBYD本社から見て非常に不満足な成績ですが、BYDジャパンがここから巻き返すとした場合、軽を武器にすれば月1000台の販売需要は十分にあるはずです。それが達成できればBYDは日本市場でテスラを抜き、外車のトップ3に肉薄することになります。

 ということで話をまとめます。今秋始まるイオンでのBYDの販売は、当初一年ぐらいは鳴かず飛ばずで閑古鳥が鳴くでしょう。けれども、イオンがそれを1年間のウォーミングアップだと割り切ることができれば、本当の勝負は経験値をつけたあとの2026年秋に始まります。自動車各社はイオンについては少しだけ気を引き締めたほうがいいかもしれません。