大事な会議やプレゼンの前や、評価を待つ時間など緊張やプレッシャーで落ち着かないとき、「リラックスしよう」「落ち着こう」と自分に言い聞かせる人は多いのではないだろうか。ところが、これは逆効果になることがある。緊張を緩和し、よりよい成果を上げるのに必要な考え方をはじめ、肉体的、精神的な負担を減らすテクニックが紹介されているのが『瞬間ストレスリセット――科学的に「脳がラクになる」75の方法』(ジェニファー・L・タイツ著、久山葉子訳)だ。本書はストレスを抱えやすい人のために、科学的に実証された不安・不満を解消する方法、自分をリセットして気持ちよく過ごせる方法を多数紹介している。「シンプルなのに効果抜群」「ストレスが尋常じゃなかったので助かった」「すぐに使える方法がたくさん載っている」など絶賛レビューが多数寄せられている。本記事では、緊張やプレッシャーをラクにするテクニックについて本書を引用しながら紹介する。(構成/小川晶子)

【「リラックスしよう」「落ち着こう」は逆効果!?】緊張やプレッシャーによるストレスを一瞬でラクにする方法Photo: Adobe Stock

緊張やプレッシャーから来るストレス

大事な会議での報告やプレゼン、大事な決断の場面などでは、多かれ少なかれ誰でも緊張するものだ。
締め切りが短いなどハードな条件の中で高いレベルの仕事をしようと思うときもそうだろう。

適度なストレスは集中力を高めてくれるというが、ストレスが行き過ぎてしまうと大変だ。

心臓バクバク、頭真っ白、手に汗をかくわ指は震えるわというのでは集中どころではない。下手をすれば能力の半分も出せず、落ち込むことになってしまう。

実際、「脅威」を感じているときは心拍数や血圧が上昇し、ネガティブな気分も強まり、認知能力が低下することがわかっているらしい。

そこまでいかなくとも、緊張やプレッシャーが多すぎるのは心身にとって負担であることは間違いない。
プレッシャーを暴れさせるのではなく、手なずけたい。

小心者で、飲み会の幹事をするだけでも大きなプレッシャーを感じてしまう私にとっては長年の課題である。

「落ち着かなきゃ」は逆効果

緊張、プレッシャーが自分の中で強まり、暴れそうになっているとき「落ち着こう」「リラックスしなきゃ」などと唱えがちではないだろうか。

私は、呼吸が浅くなっているのに気づいて、呼吸をしながら「落ち着け、落ち着け」とよく唱えている。

ところが、「落ち着かなければいけない」という考えは逆効果であるようだ。

『瞬間ストレスリセット』の中に、ハーバード・ビジネス・スクールの准教授アリソン・ウッド・ブルックス博士の研究が紹介されている。

(この調査への)参加者の90%が「能力に評価を下されることに不安を感じたら、気持ちを落ち着けなければならない」と考えていて、実はその考え自体がストレスの原因になっていたことがわかった。
――『瞬間ストレスリセット――科学的に「脳がラクになる」75の方法』(p.42)

確かに、「落ち着かなきゃ」「リラックスしなきゃ」と考えたところで緊張や不安が和らぐわけではない(深呼吸には良い効果があるが)。

むしろ、「落ち着かなければならない」と自分にプレッシャーを与えることでストレスを強めてしまっているのだ。

ドキドキを「ワクワク」に変える

では、どうしたらいいのだろうか。

ブルックス博士は緊張を「再評価」することを勧めている。緊張でドキドキしている状態を許して、「私はワクワクしている」と再解釈するというのである。

2分間スピーチをする前の不安を「ワクワクする」と捉え直した人は心のこもったスピーチができ、より長く話したという。ストレスをワクワクに捉え直した人は、周りからも有能で自信があると見られたのだ。
――『瞬間ストレスリセット――科学的に「脳がラクになる」75の方法』(p.43)

本書の著者で臨床心理学者のジェニファー・L・タイツ氏は言う。

生活の中で、「落ち着け、私」を「なんかワクワクする!」に置き換える実験をしてみてほしい。
――『瞬間ストレスリセット――科学的に「脳がラクになる」75の方法』(p.44)

それだけで本当に効果があるの?
半信半疑なのではないだろうか。簡単すぎて、「それでラクになったら苦労はしないよ」と言いたくなる(私は言った)。

「捉え方」ひとつで、緊張は成果に変わる

タイツ氏はこれでもかと証拠をあげてくれている。

①ロチェスター大学の心理学教授でストレスの研究者ジェレミー・ジェイミソン博士が、大学院の入試に向けて勉強している学生を対象に行った研究

「動悸であれ不安であれ、身体のストレス兆候は困難を意味するのではなく、良い成績を取るのに役に立つことを思い出すよう促した」

実行した学生は、指示を受けなかった学生グループと比較して数学で良い成績を収めた

②ジェイミソン博士が、コミュニティ・カレッジで数学を受講する学生を対象に行った研究

ストレスによる感情の高ぶりを「再評価」するように教える

数学の成績が向上しただけなくコースを修了する確率も高まり、ストレスの生理的兆候であるコルチゾールの値が低下

③ハーバード大学の心理学者ミランダ・ベルツァー氏らによる研究

人前で話す被験者に、心臓がドキドキする感覚を「身体に酸素が供給されている証拠だ」とポジティブに捉えさせた

恥ずかしさや不安が軽減し、ソワソワする度合い、認知機能、心血管系に至るまで「全般的に」向上することがわかった
――『瞬間ストレスリセット――科学的に「脳がラクになる」75の方法』(p.44~45 一部編集)

こんなに証拠があるのだから、自分も素直にやってみようと思える。

タイツ氏が言うように「実験」と思って試せばいい。

私は実験中だが、「この緊張は良い結果をもたらしてくれる」と考えることで気持ちがラクになることを実感している。

本書には、簡単ですぐに実践できるストレスリセット法が75も紹介されているが、すべて研究によって実証されているという強みがある。安心していろいろ試してみたいと思う。

(本稿は『瞬間ストレスリセット――科学的に「脳がラクになる」75の方法』に関する書き下ろし特別投稿です)

小川晶子(おがわ・あきこ)
大学卒業後、商社勤務を経てライター、コピーライターとして独立。企業の広告制作に携わる傍ら、多くのビジネス書・自己啓発書等、実用書制作に携わる。自著に『文章上達トレーニング45』(同文館出版)、『オタク偉人伝』(アスコム)、『超こども言いかえ図鑑』(川上徹也氏との共著 Gakken)、『SAPIX流 中学受験で伸びる子の自宅学習法』(サンマーク出版)がある。