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政府の資源エネルギー庁が10月31日に公表した「今夏の電力需給及び今冬以降の需給見通し・運用について」と題された資料が突きつける、首都の電力供給の脆弱さとは――。(イトモス研究所所長 小倉健一)

資源エネルギー庁の資料に
書いてあったもの

 東日本大震災の直後に実施された「計画停電」の記憶は、多くの日本人にとって過去の出来事として風化しつつある。首都・東京において、計画停電は決して過去の悪夢ではなく、すぐそこにある未来の危機として再び現実味を帯びている。

 政府の資源エネルギー庁が10月31日に公表した「今夏の電力需給及び今冬以降の需給見通し・運用について」と題された資料(※1)は、その現実を冷静に突きつける。この中で、電力供給の安定性を示す指標である「予備率」について、極めて重要な基準が示されている。

 予備率とは、電力需要のピークに対して供給能力がどれだけ上回っているかを示す数値であり、電力システムの「体力ゲージ」のようなものだ。このゲージが「3%」を下回ると、電力供給は極めて不安定な状態に陥る。

 政府はこの「3%」を、安定供給を維持するための「最低限のライン」と定義している。もし予備率が5%を下回れば「需給ひっ迫注意報」が発令され、国民に節電が呼びかけられる。3%の壁を割り込めば、より深刻な「需給ひっ迫警報」に切り替わる。

 そして、予備率が1%という破局的な水準まで低下すれば、政府は「計画停電の可能性」を国民に通知し、最終手段に踏み切る準備を始める。これは交通信号に例えるなら、予備率5%が「黄色信号」、3%が「赤信号」、1%が「交差点への進入禁止」を意味する。

8月に火災などのトラブルで
複数の発電所が計画外停止

 では、現在の東京の電力供給は、この3%の壁を盤石に守り切れる状態にあるのか。

 この問いこそが、日本のエネルギー安全保障の核心であり、我々の日常生活が今後も維持されるか否かを占う試金石となる。一見すると、東京の電力供給は安定しているように見えるかもしれない。しかし、その内実は、綱渡り運用でかろうじて成り立っているのが実態だ。

 事実、8月末には火災などの想定外のトラブルにより、複数の発電所が計画外停止し、予備率が急低下する事態が発生した(※1)。

※1 「今夏の電力需給及び今冬以降の需給見通し・運用について」(2025年10月31日、資源エネルギー庁)