他人の活躍や成功を見るたび、つい自分と比べて落ち込んでしまう。そんな経験に、覚えのある人は少なくないのではないだろうか。『瞬間ストレスリセット――科学的に「脳がラクになる」75の方法』(ジェニファー・L・タイツ著、久山葉子訳)は、そんなストレスや感情のモヤモヤに、実践的なケアを提案する一冊だ。認知行動療法、ACT、マインドフルネスといった複数の心理療法をもとに、感情に振り回されず、自分に合った方法で心を整えるヒントが紹介されている。本書に深く共感するのが、精神科医・禅僧の川野泰周氏。「自分の内面と静かに向き合える一冊」と語る川野氏に、人と比べて落ち込む心とどう向き合えばいいのか、そのヒントを聞いた。(取材・構成/ダイヤモンド社・林えり、文/照宮遼子)

【精神科医が教える】あの人と自分を比べてしまい、気分が落ち込む…。「嫉妬・劣等感を抱きやすい人」がラクに生きるために必要なこととは?Photo: Adobe Stock

比べてしまう心の正体

――調子が悪いと、「あの人はうまくいっているのに、なんで私は……」と思ってしまいがちに。嫉妬や劣等感を抱きやすいときは、どうしたらいいでしょうか。

川野泰周(以下、川野):まず、「嫉妬の正体」がわかると少し心がラクになっていきます。

――嫉妬の正体ですか。

川野:はい。そもそも、すぐ人と比べてしまう背景には「自分はダメだ」という強い自責の念があります。

その延長で、他人の成功がやけに輝いて見えてしまうんです。

さらに、その反動で、「投影」と呼ばれる心理が働くことがあります。

これはフロイトが言った「防衛規制」の一つで、自分への不満や苛立ちを無意識のうちに他者にぶつけてしまうことです。

そういう場合、「あの人なんてたいしたことがないのに」という批判感情や、「自分ばかりが損している」といった感情を抱きやすいのです。

他人を批判したくなるのは、「自信のなさ」「抑えている欲求」の裏返し

――自分がうまくいっていないときは、いろいろな人に対して批判的になりやすい気がします。

川野:そうですね。「あの人はおかしい!」と言いたくなるのは、実は自信のなさの裏返しだったりします。

身近な人のことだけでなく、SNSやニュースで誰かの言動を批判したくなる背景には、そういう心の動きがあります。

――批判的なコメントの中でもとくに不倫や失言に対して、強く反発する声が集まりますよね。

川野:そうした反応の裏には、「抑えている欲求」があることが多いです。

たとえば「本当は自由に恋愛したい」「自分の好きに生きたい」と思っていても、常識やルールで我慢している。

だから、それを堂々とやっている人を見ると、「自分は我慢しているのに」と腹が立ってしまうんです。