失敗をいつまでも引きずってしまう。気持ちを切り替えたいのに、自分を責め続けてしまう。そんな失敗で自己肯定感を下げてしまう人にすすめたいのが、『瞬間ストレスリセット――科学的に「脳がラクになる」75の方法』(ジェニファー・L・タイツ著、久山葉子訳)だ。マインドフルネスや認知行動療法など複数の心理技法を土台に、自分の好きなことで心を整えるヒントが散りばめられている。本書について「全人類にすすめたい」と語るのが、精神科医・禅僧の川野泰周氏。ストレスと向き合う臨床の現場で、多様なアプローチを実践してきた川野氏に、「失敗にどう向き合えばいいのか?」をテーマに話を聞いた。(取材・構成/ダイヤモンド社・林えり、文/照宮遼子)

失敗をバネにできる人、できない人の違い
――何か失敗したときに、心が折れてしまい、「自分はダメだ」と思い込んでしまう人もいれば、失敗をバネにできる人もいます。その違いは何なのでしょうか?
川野泰周(以下、川野):それは、失敗したときに「『事実だけ』を冷静に検証できるかどうか」にかかっています。
何か嫌な出来事があると、「自分はダメだ」という感情に巻き込まれやすくなります。
でも、「この場面でこういう行動をとった結果、こうなった」と「事実だけ」を整理できれば成長につなげられるというわけです。
これは認知療法の基本的な考え方でもあります。
――たしかに、出来事を感情的で捉えすぎてしまうと、必要以上に落ち込んでしまいますよね。
川野:はい。たとえば仕事でミスをして上司に叱責されたとき、「上司に失望された」「もう信頼されない」と意味づけしてしまいがちです。たしかに上司の言い方がきつかったかもしれませんが、事実は「ミスを指摘された」だけです。次は同じミスをしないよう気をつければいいだけなんです。
――叱責されると、反射的に「自分の評価が下がってしまうのでは……」と考えてしまう人は多いですよね。
川野:そうですよね。だからこそ、感情を挟まず、事実だけを見てみる。すると、ほんの小さなことが自分の中で大失敗したかのように膨張していたことに気づけるんです。
――失敗したり、怒られたりしたあと、なかなか冷静になれないときはどうすればいいでしょうか?
川野:そんなときは、『瞬間ストレスリセット』で紹介されている「失敗を検証する」のアプローチがとても役に立ちます。このアプローチでは、「失敗の原因」と「次にどう行動すべきか」をシンプルに整理することをすすめています。直すべき点が具体的に見えるので、いたずらに自分を責めることが減っていきますよ。
つらい経験は「心を鍛える練習」になる
――嫌な場面は思い出すのもつらいので、出来事を直視するよりも、気を紛らわせることばかりしてしまう人も多そうです。
川野:そうですね。失敗したり怒られたりすると、その場面の記憶自体をなかったことにしたくなるのは自然な反応です。
たとえ、失敗をうまく振り返られなかったとしても、「失敗」というハードな経験をした時点で、「避けたいようなしんどい出来事に自ら挑戦し、経験した」とも言えるわけです。
これは、本書に書かれているストレス耐性をつける技術「避けたいことにあえて取り組む」というメソッドに取り組んでいると言えますね。
――失敗を経験するだけでもストレス耐性がついていくんですね。
川野:そうです。「ショックを受けているいまこの瞬間も、私は心を鍛えられているんだ」と捉え直してみてください。自分はトレーニング中だと考えるだけでも、感情との向き合い方が変わってくるのではないでしょうか。
体を動かす、空を眺める…。小さな行動で気持ちをリセットできる
――川野先生は失敗したと感じたとき、どのように気持ちを立て直しているんですか?
川野:まずは少し体を動かすようにしています。たとえば軽いジョグで体を動かしたり、窓の外の空を眺めてみたりするんです。
空はどこまでも広がっているので、「こんな小さなことで悩んでいるのか……」と、気持ちが切り替わることが少なくありません。
――そうやって意識的に切り替えるのが大事なんですね。
川野:そうですね。体を少し動かしたあと、深呼吸や短い瞑想をして、少し冷静さを取り戻してから、事実を客観的に捉えるようにしています。
また、「相手には相手の事情がある」と考えるのも大切です。そうすると怒りや悲しみから「一歩引いて」見られるんです。