世界的なベストセラー『嫌われる勇気』の著者である古賀史健氏の新刊、『集団浅慮 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?』が発売され、早くも大きな反響を呼んでいます。自著としては「最初で最後のビジネス書かもしれない」という思いで書かれた同書のきっかけとなったのは、2025年に社会に大きな衝撃を与えた「フジテレビ事件」でした。その「第三者委員会調査報告書」をベースに、事件のあらましを振り返る序章の一部を公開します。
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女性Aはなにを語ったか
6月7日、女性Aは佐々木アナと面談し、本事案について口を開いた。前日のC医師とD医師、そしてE室長との面談に続いて、3度目の報告だ。ここで女性Aが語った内容について調査報告書では、おおきく次の6つに分類している。
①6月2日に中居氏から複数人でパーティーをする予定だと聞かされていたものの、2人になってしまったこと。2人でもよいかと中居氏に訊ねられ、承諾して彼が別宅のように使っているマンションに向かったこと。
②ここで断ったら仕事に支障が出ると考え、行くことにしたこと。
③(マンション内で起きた性暴力事案)
④誰にも知られたくないこと。仕事も変わりなくやっていきたいこと。こんなことで自分の人生を駄目にしたくないこと。
⑤中居氏のマンションで見た鍋の食材が食べられなくなったこと。
⑥いまも(ショートメールで)中居氏とやりとりをしていること。
また、これ以外に女性Aは、今後中居氏と番組で共演することがあっても構わない旨を述べていたという。
調査報告書には記載されていないものの、当時女性Aはある情報番組にレギュラー出演していた。その番組には中居氏がゲスト出演する機会がたびたびあり、佐々木アナも出演していた。
おそらくこの件を公にせず、番組プロデューサーにさえ隠したままにしておくと、また中居氏と共演する機会がやってくる。それもあって前日のE室長、そしてこの日の佐々木アナとの面談では、共演の可否が話題にのぼったのだろう。逆に言うと中居氏は、その後共演する可能性が高い女性アナウンサーに対し、性暴力を働いたことになる。
中居氏との共演も可能だと強弁する女性A。しかし彼女の精神状態は明らかに混乱していた。その様子を見た佐々木アナは、一旦彼女の意向を受け止めた上で「もしも今後心変わりすることがあったら言ってほしい」と伝え、彼女を帰宅させることとした。
報告を受けた3人の共通認識
翌6月8日、女性Aから最初に相談を受けたC医師から、アナウンス室のE室長と佐々木アナのもとに相談したい旨、連絡が入る。健康相談室に集まった3人は、ここで女性Aからの相談内容、また心身の状況について情報共有をして、どのように対応していくかを話し合った。
前日、そして前々日と、3人はそれぞれ別の場所で、別の時間帯に、つまり個別に女性Aからの相談を受けている。また、調査報告書のなかでは、いずれの面談においても女性Aの「混乱状態」に関する記述がなされ、それは特筆せざるをえないほどの「混乱」だったことが窺える。証言内容の正確性について、疑いを差し挟む余地もあるだろう。
しかし、それぞれに得た証言を共有したところ、女性Aが3人に話した内容はほとんど一致していた。これによって女性Aが中居氏から性暴力を受けたことは、3人の共通認識となった。以下が、共有された情報の主な内容である。
①2023年6月2日(金)、中居氏から彼の所有するマンションでおこなわれるホームパーティーに誘われた。
②パーティーがはじまる前に中居氏から、雨でみんなが来られなくなってしまい、2人になりそうなのだが来られるか、との連絡が入った。
③断れば仕事に影響があるかもしれないと判断し、ひとりでマンションを訪ねた。
④中居氏から(その行為に関する具体的な供述内容の)性暴力被害を受けた。
⑤面談のなかで女性Aは「元の自分に戻れない」「もう幸せになれない」と言っていた。
⑥中居氏のマンションで食べた鍋の食材をスーパーで見ることもできない、まったく食べられないと言っていた。
⑦過呼吸が見られ、号泣しながらの相談であり、心身の状態は悪い。
⑧今後について「誰にも知られたくない」「知られたら生きていけない」と述べている。
⑨これまでどおりに仕事をし、中居氏との共演も可能だ、と述べている。
では、これからどうするか。
彼女の言うように、これまでどおりに仕事をさせるのか。それとも、しばらく休ませるのか。上長へは、報告すべきか。コンプライアンス推進室にも共有するべきか。
訴えられた性暴力の内容は、衝撃的なものだった。そして女性Aの心身の状態は、極めて悪かった。それを見ていたE室長と佐々木アナは、彼女が自死に及ぶ危険を強く恐れた。そしてC医師からの助言の下、アナウンス室としての対応方針を次のように決定した。
①この件を誰かと共有する際には、女性Aに事前確認をとる。
②女性Aの精神状態が非常に不安定なため、彼女のケアを最優先にする。
③番組出演については、アナウンス室の判断で勝手に取り止めさせない。
④業務を継続するか休務とするかについては必ず医師に相談し、医師の所見をもとに判断する。
これを受けて佐々木アナは、女性Aと話し合いの場を設ける。調査報告書に正確な日付は記載されていないものの、6月8日か6月9日のことだろう。
ここで女性Aは、6月10日の土曜日ごろまで番組出演を続け、日曜日を挟んだ翌週月曜日(12日)から19日までの一週間、休務とすることが決められた。番組を休む対外的な理由は「体調不良」。もちろん中居氏との件は誰にも明かさない。
そして休務を経て出社した6月20日。女性Aはほんとうに業務復帰できるのか不安があったため、健康相談室のD医師を訪ねる。ここからおよそ3週間、彼女は「これまでどおり」に働こうとした。
※この記事は『集団浅慮 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?』の一部を抜粋・変更したものです。








