「人生を一変させる劇薬」とも言われるアドラー心理学をわかりやすく解説し、ついに国内300万部を突破した『嫌われる勇気』。「課題の分離」「トラウマの否定」「承認欲求の否定」などの教えは、多くの読者に衝撃を与え、対人関係や人生観に大きな影響を及ぼしています。
今回は、紀伊國屋書店新宿本店で開催された「『嫌われる勇気』国内300万部突破記念トークイベント」より、本書の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、読者の皆様から寄せられた様々な「人生の悩み」に回答したQ&Aコーナーの模様をお届けします。「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と喝破するアドラー心理学流の回答を、ぜひ参考にしてみてください。(構成/ダイヤモンド社コンテンツビジネス部)
「自分の価値」を見失わせる言動は絶対NG
Q. ハラスメントを意識するあまり、部下への指導が思うようにいきません。どうしたらいいでしょうか?(20代・男性)
岸見一郎 部下との接し方に戸惑いを感じている人は、いま本当に多いと思います。しかし、アドラーの考え方を理解すれば、光明が見えてくるはずです。
アドラーは、「人間は自分に価値があると思えるときにだけ、勇気を持つことができる」と述べています。これを仕事の場面に当てはめると、「部下は自分に価値があると思えるときにだけ、仕事に取り組む勇気を持てる」となります。仕事においては、自分に能力があると思えるということです。
なので、何をおいても、部下が自分の価値を見失うような言動は「絶対NG」です。たとえば、人は語気を強めて怒られると、自分に価値があるとは思えなくなります。リーダーが「いつも失敗ばかりしているではないか」と叱ったら、「自分はダメな人間だ」と思うようになり、仕事に取り組む勇気をなくすことになります。
リーダーは、そうした威圧的な言動ではなく、部下が「自分には価値があるのだ」と感じられるようなサポートをしないといけません。では、具体的に何をすればいいでしょうか?
他者に「貢献」していることに注目することです。つまり、部下がしたことを当たり前だと思わず、「ありがとう」「助かった」という風に貢献に注目する言葉をかけることが大切になります。
私たちはどうしても、ミスや間違いに目が行きがちですが、課題を達成する努力をしているところに注目することも必要です。これをリーダーが実践し続ければ、きっといい職場になっていくはずです。
人間は誰しも「フラットな関係」にある
古賀史健 アドラーの思想のベースには、人間は誰しもフラットな関係にあり、上下関係は本来的に存在しないという考え方があります。なので、組織の中でも、そうした人間観を応用して、対人関係やリーダーシップを構築していくことは可能だと思います。
もちろん、新入社員とベテラン社員とでは、持っているスキルや知識、できる業務は異なります。しかし、それらはその人たちの「価値」の違いではなく、その道にどれだけ先に入ったか、あるいはどれだけ後から来たかというだけの違いです。
つまり、組織のメンバーの間には、垂直な「上下/縦の関係」ではなく、水平な「前後/横の関係」しかないのです。アドラー心理学を読み込んでいけば、そのあたりのことがよくわかるので、対人関係で「どうふるまうべきか」がおのずと見えてきます。
ちなみに僕は、ライターが集まっている「バトンズ」という会社の経営者でもありますが、みんなのコーヒーを淹れるのは、僕の仕事です(笑)。また、どんなに若い社員に対しても敬語を使いますし、何かを頼むときは、特に丁寧な言い回しを意識しています。
そうすることによって、「全員がフラットな関係だ」ということを社員みんなに理解してもらい、仕事上の様々なやりとりがスムーズになればいいと考えています。
(本稿は、『嫌われる勇気』国内300万部突破記念イベントのダイジェスト記事です)