子どもと一緒にできることは、いつか必ず「最後の一回」を迎える。ミルクを買わなくなった日、抱っこ紐を置いていくようになった日、ベビーカーを手放した日――。どれも静かに終わっていく。後悔しない生き方を伝える話題のベストセラー『DIE WITH ZERO』では、それを「小さな死」と呼んでいる。そのとき、ふと考えた。私はあと何回、子どもたちと旅行に行けるのだろう?(執筆:坂本実紀、企画:ダイヤモンド社書籍編集局)

【残りたった6回】親が意識していない「子どもとの時間」の“残酷な現実”Photo: Adobe Stock

『プーさん』の映画を一緒に見れなくなった日

坂本実紀(さかもと・みき)
WEB&ブックライター
高知県出身の3児の母。出版社勤務を経てフリーライターへ転身し、現在は新潟市を拠点に地域情報メディアのライティングやブックライティングに携わる。恋愛コラムニストとしても活動し、これまでに受けた恋愛相談は1万人を超える。

子育てをしていると、必ず「終わる」ことがたくさんある。

高くて買うのがつらかったミルク缶はもう買わなくなった。何枚も名前を書いて保育園に持たせ、気が遠くなるほど変えたオムツもいつの間にか卒業した。お出かけの必須アイテム、抱っこ紐もいつの間にか置いていくようになった。玄関スペースを占領し、何度使ったかわからないベビーカーも、とうとう手放した。

当然のことだが、改めてその事実に目を向けると、心にぽっかり穴が開いたように胸がキュッと苦しくなる。「小さな死」という表現がぴったりかもしれない。それは、確実に「終わった」のだ。

『DIE WITH ZERO』でも、これと似た筆者と娘のエピソードが登場する。筆者は、娘と『くまのプーさん』の映画を一緒に見るのが大好きだったそうだ。しかしある日、10歳になった娘にプーさんを見ようと誘ったら「もう、そうした子ども向け映画は見たくない」と断られてしまったという話だ。そして筆者はこう伝えている。

どんな経験でも、いつか自分にとって人生最後のタイミングがやってくる。
――『DIE WITH ZERO』より

当たり前といえば当たり前だが、これはふだん、私たちが直視できていないことでもある。

あと何回、家族と旅行できるのだろう?

この言葉を読んで、私は「あと何回家族で旅行ができるんだろう?」と思った。3児の母である私は、子育てをしていると「家族で旅行」なんていつでもできると思ってしまう。

しかし、子どもが成長し、部活やバイトが入ってくると「家族一緒に」は難しくなる。実際、休日の予定を伝えても「友達と遊ぶから」と小学3年生の長男には断られることが増えた。振り返ると、私自身、子どもの頃に家族と旅行に行った最後の思い出は小学6年生の頃だった。

ある調査によると、家族が一泊二日以上の旅行をする回数は、年1~3回程度だそうだ。長男は今年小学3年生。小学生のうちに毎年2回家族旅行に一緒に行ってくれるとしても、もう、あと6回。そのあと中学生になって数回家族旅行ができると見積もっても、きっと10回ほどだろう。

え? 小学生のこの子と旅行できるのはあと6回くらい? 驚くべき少なさではないか。

「家族で全国を制覇したいね」と47都道府県全制覇マップを買ったのは今年だ。どこにでもずっと一緒に行けると思っていた。家族だから。

でも、その「いつでも」「ずっと」は、実は幻想でしかなかった。

「家族旅行」は実は貴重なのだ。来年の旅行は、子どもたちの意見を聞きながら、いくつか県をまたぐプランにするのもいいかもしれない。一泊二日を、二泊三日に伸ばすのもいいだろう。後悔が残らないように、家族の意見を聞きながら計画したい。

(本原稿は、『DIE WITH ZERO』(ビル・パーキンス著・児島修訳)に関連した書き下ろし記事です)