タワマン暮らしの息子が母親を「女」として意識→父親の身に起こった「衝撃の結末」に戦慄する『「子供を殺してください」という親たち』原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ/新潮社

さまざまなメディアで取り上げられた押川剛の衝撃のノンフィクションを鬼才・鈴木マサカズの力で完全漫画化!コミックバンチKai(新潮社)で連載されている『「子供を殺してください」という親たち』(原作/押川剛、作画/鈴木マサカズ)のケース5「依頼にならなかった家族たち」から、押川氏が漫画に描けなかった登場人物たちのエピソードを紹介する。(株式会社トキワ精神保健事務所所長 押川 剛)

両親が「親」になれず→息子は母親を「女」として意識

 トキワ精神保健事務所の「精神障害者移送サービス」にはさまざまな相談が舞い込む。相談では本人の病気のことだけでなく、家族関係などにも踏み込んでヒアリングを行うが、結果として依頼されない場合も多い。

 今回は、登場人物が「子どもを殺してください」という言葉を口にするなど、漫画のタイトルを非常に色濃く、わかりやすく表出したケースだ。

 タワマンで裕福な暮らしをしている沢入真(25歳・仮名)の母親からの相談だが、母親から衝撃的な発言が飛び出す――というのが、今回のストーリーだ。

 幼少期からの育てにくさ、さまざまな診断名、狂った金銭感覚と散財、親への暴力。ここまではよくあるケースといえる。特筆すべきは、息子が母親を「女」として意識し、実際に行動にまで移しているという異常事態であろう。

 心理学者のフロイトがいうところのエディプスコンプレックスは、息子が母親を自分のものにしたいと思うあまり、同性である父親に敵意や対抗心を抱くことをいう。しかし今回のケースでは(あくまでも相談の段階ではあるが)、父親の存在は感じられなかった。

 億は下らないだろうタワーマンション住まいや、息子の散財ぶりからみても、父親が相当に稼いでいることが伺えた。

 母親はまるで経理を担っているかのごとく、息子の金の遣い道を示す領収書や請求書をそろえていた。そして母親が息子のことを語る姿は、金遣いの荒いダメ男について語る女性と同じ空気感であったことも印象に残っている。

 私の主観だが、この家庭の両親は「父親」と「母親」でありながら、究極に「男」と「女」として生きている。子どもを医療につなげたり不足のない生活を与えたりと表面的な養育はしているが、本人の「いいところ」を尋ねても1つも挙げられない。

 両親は子どもに対し、親=人間としての安心感を与えてこなかったのだろう。やがて息子は成人し、父親(男)が不在の家庭で、母親を「女」として認識するようになった。

 そのとき母親は、我が子を守る・助けるという「母性」よりも、「女性としての自己防衛」が勝ったのではないかと私は考える。それが、「子どもを殺してください」という言葉につながった。

 このようなケースに私が介入するならば、答えは家族解体しかない。親も子どもも解体してゼロベースになり、それぞれが生きる道を探すのだ。

 しかし母親は、父親の稼いでくる金に未練があったのだろう。だからこそ「1円たりとも払いたくない」という答えになった。

 今回のケースは相談のみだったため、息子が父親を殺害したという結末に関しては、がく然とする一方で「やはり」と冷静に受け止めた私もいる。いずれにしても私の仕事は、さまざまな形で「死」に向き合わされる。

 今思えば、母親は「父親が殺されるかもしれない」とわかったうえで相談に来ていたのだろう。それもまた、「男」と「女」の結末という気がしてならない。


 現代社会の裏側に潜む家族と社会の闇をえぐり、その先に光を当てる。マンガの続きは「ニュースな漫画」でチェック!

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