『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第40回では、大企業に求められるビジネスの「モラル」について解説する。
大手企業だからこそ、モラルを大切にすべき
自らが手がけるTシャツ専門店「T-BOX」の新作Tシャツがヒットし、活気づく主人公・花岡拳と、花岡企画のメンバーたち。売り上げも想定より3割近く上回る好調ぶりだ。
その状況を受け、社長である花岡は、社員みんなでの飲み会を提案する。飲みの席では、製品の縫製を担当した片岩八重子(ヤエコ)が涙ながらに生みの苦しみを語るのだった。
そんな状況を苦々しく思うのが、花岡憎しで競合ビジネスを手がける大手商社・一ツ橋商事の井川泰子だ。彼女は部下の高野を走らせ、花岡たちの新作Tシャツの生地を横取りするように指示。その生地を中国の工場に送り、新店舗である新宿店のオープンに合わせた目玉商品を作ることを画策する。
しかし高野は井川の指示に反対。そもそも調整の時間が足りないと説明し、「他社の企画を強奪するなんてあまりにも悪辣(あくらつ)すぎる」「我々は大手だからモラルを大切にして非難を受けることは避けるべき」と井川をいさめる。
だが井川は、そんな意見を一蹴。「あいつは害虫なんだから駆除するのにモラルなんていらないわ」「私が聞くのは『すべて完了しました』このひとことよ」と、高野に生地の横取りを命じるのだった。
仕入れ先の「モラル低下」でブランド価値が吹き飛んだ世界的企業
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
好調なT-BOXを邪魔しようと、生地の“横取り”という強引な手法を選ぶ井川。部下の高野が「大手だからこそモラルを大切にすべき」と制止するが、耳を貸さない。
だが高野が言うように、モラルの低い商行為によって、一瞬にしてブランド価値が吹き飛んだ大企業は少なくない。
損失隠し、模倣商品の販売、データの改ざんや不正など、事例は枚挙にいとまがない。広く消費者の記憶に残り、また同時に世界的企業に大きな傷を残した事例としては、2014年に発覚した、日本マクドナルドの「鶏肉問題」がある。
2014年当時、中国・上海にあった仕入れ業者の1社が、期限切れの鶏肉を混入した「チキンマックナゲット」を製造していたことが発覚して、日本でも大きな問題となった。あくまで仕入れ先の問題であったものの、消費者の怒りや不信感の矛先はマクドナルドへと向かったのだった。
仕入れ先のモラル低下が引き起こしたこの問題は、ビジネスの上でも大きな「傷」を残した。原材料廃棄の費用計上や信頼低下による売上高の減少などを背景に、日本マクドナルドの2014年12月期の決算は、営業利益で67億円の赤字、当期純利益は218億円の赤字という厳しい数字で着地した。
なお、日本マクドナルド公式サイトの「よくある質問」には、現在も「2014年7月に問題になったあのナゲットは本当に日本のマクドナルドで販売されたの?」の項目がある。
そこでは「日本に輸出されたかどうかについては、日本政府は、中国政府から問題ない旨の報告を受け、日本国内で発表しております。また、日本向け輸出製品に関する情報は、現在、厚生労働省が外務省を通じて中国政府に確認中ですが、日本向けの輸出製品に成分規格外や基準外があったとの報告は現在のところございません」と説明されている。
今でこそ「チキン」の商品群でのブランドを取り戻している同社。しかし当時は連日メディアやネットで本件が報じられることとなり、そのダメージは計り知れないものだった。
生地を横取りしてまで花岡たちに対抗する井川。だが、モラルを軽んじた商品開発は、次回以降で井川自身を危機に追い込むことになる。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







