いま、「『金持ち父さん 貧乏父さん』以来の衝撃のお金の戦術書」と絶賛されているのが、ニック・マジューリ著『JUST KEEP BUYING』だ。そしてついに全世界待望のお金の戦略書『THE WEALTH LADDER 富の階段』が日本上陸。今回はスコット・ギャロウェイも絶賛する最新刊について、一橋大学特任教授の楠木建氏に寄稿いただいた。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)
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「富の階段」フレームワークの2大ポイント
「富の階段」フレームワークのポイントは2つある。
第1に、収入(年収)というフローではなく、純資産というストックを基準としていること。
フローは気まぐれなものだ。
去年まで十分な年収があっても、今年もそうだとは限らない。
収入の不安定性は高額所得者ほど顕著になる。
現役時代に何百万ドルもの年俸を得ながら、数年後に破産してしまうプロスポーツ選手は枚挙にいとまがない。
彼らの問題は資産ではなく収入に基づいて消費をしていることにある。
第2に、下位のレベルとひとつ上位のレベルには10倍の開きがあるということ。
すなわち、「富の階段」の段差は、上位に行くほど大きくなる。
レベル1(資産1万ドル以下)がレベル2(資産1万ドル以上~10万ドル未満)に移動するのは難しいことではない。
しかし、資産100万ドルのレベル4(資産100万ドル以上~1000万ドル未満)にある人が、さらに上位のレベル5(資産1000万ドル以上~1億ドル未満)に到達するのは相当に難しい。
10倍の1000万ドルの資産が必要になるからだ。
「0.01%ルール」とは?
こうした資産レベルの6段階というアイデアの有用性は、著者の「0.01%ルール」という主張に注目すると直感的に理解できる。
その人にとって「取るに足らない金額」とはいくらか。
それは「資産の0.01%」だと著者は言う。
資産が1万ドルあれば、日々の1ドル(0.01%)の支出はその人のファイナンスに与える影響は小さい。
資産が10万ドルの人は、ある支出に10ドル多く払っても、何ら問題はない、というわけだ。
「0.01%ルール」にはそれなりの論拠がある。
資産を投資で運用し、それが毎日0.01%ずつ増えていくとする。
これを1年の利回りに換算すると3.7%となる。
インフレの影響と差し引いても、3.7%のリターンはまずまず妥当な期待水準だ。ということは、毎日、資産の0.01%を使っても、資産は減少しないということになる。
「富の階段」と消費のゆとりの関係
このルールに基づいて、「富の階段」と消費のゆとりの関係を見るとこうなる。
レベル1(資産1万ドル未満)――余裕なし
レベル2(資産1万ドル以上~10万ドル未満)――食料品の自由:値段を気にせずにスーパーで食料品を選べる
レベル3(資産10万ドル以上~100万ドル未満)――レストランの自由:値段を気にせずにスーパーで好きなメニューを選べる
レベル4(資産100万ドル以上~1000万ドル未満)――旅行の自由:好きな時に好きな場所に旅行できる
レベル5(資産1000万ドル以上~1億ドル未満)――住居の自由:資産全体に対して影響を与えずに、好きな家を買える
レベル6(資産1億ドル以上)――影響力の自由:お金を使って他人に大きな影響を与えられる(企業買収や大規模な慈善活動等)
どうだろうか。
それぞれのレベルの「自由」は僕の直観に実にうまく合致している。
さすがにレベル6になるとイメージすら難しいが、レベル5の富裕な人々の消費行動を見ていると、確かに「住居の自由」を享受しているように思う。
そして、このことがレベル4の「旅行の自由」との決定的な違いになる。
人間にとってのお金の意味の根本を押さえた秀逸な本
この議論が秀逸なのは、人間にとってお金の価値は結局のところ「オプションが増える」ことにあるのを教えてくれるからだ。
豪邸それ自体に価値があるかどうかはその人の好みによる。
出不精であれば、旅行には消費しないかもしれない。
お金それ自体には価値がない。
お金で手に入れたものに本当の価値があるわけでもない。
「やろうと思ったらできる」という意味でのオプションが広がることに資産の価値の正体がある。
これは一例だが、本書が展開する議論は、人間にとってのお金の意味の根本を押さえている。このことが著者のメッセージに説得力を与えている。
(本稿は、『THE WEALTH LADDER 富の階段』に関する完全書き下ろしです。)











