量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回はコンピュータの性能と計算問題の難しさについて抜粋してお届けする。
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コンピュータの性能と問題の難しさ
コンピュータが計算するのに必要な時間は、どのようなハードウエアを使うかでも変わる。
1980年代に発売されたPC-9801の場合、1秒間に計算できる回数であるクロック周波数は5メガヘルツであり、現在のコンピュータが数ギガヘルツであることを考えると1000倍遅いことになる。
このように、使う機器の性能によって計算時間が大きく変わるため、実際にかかった時間だけを基に問題の難しさを評価することは難しい。
コンピュータの父の天才的発想
数学者でありコンピュータの父とも呼ばれるアラン・チューリングは、このようなハードウエアの性能にとらわれず、問題の複雑さを議論するために、「チューリングマシン」という仮想的なコンピュータを生み出した。
チューリングマシンとは、データを書き込むための「テープ」と、テープのデータを読み書きする「ヘッド」を持ち、それらを制御する仕組みから構成されたコンピュータのモデルである。
現在のコンピュータに当てはめると、テープは「メモリ」、ヘッドは「メモリへの読み書き機能」、制御部分は「中央演算装置(CPU)」に対応する。
計算複雑性の分野では、チューリングマシンのような仮想的なコンピュータを用いて、問題の難しさや、計算に必要な時間の増え方について考える。
具体的には、問題の大きさ(サイズ)をNとしたとき、その問題を解くのにかかる計算時間がNに対してどう変化するかという点に注目する。
こうした観点から、問題の複雑さや、それを計算する機械(コンピュータ)の能力について議論が行われるのだ。
マインクラフトも「チューリング完全」?
なお、チューリングマシンと同じレベルの計算ができる仕組みを持つ機械は、「チューリング完全」と呼ばれている。
たとえばトレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』や、3Dブロックで構成された仮想世界を探索・開拓するゲーム『マインクラフト』などもチューリング完全であることが知られている。
つまり、これらのゲームは決められたルールのなかで複雑な構造物を作り、コンピュータを再現することができるということだ。
(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)





