マンション価格が上がって喜んだのに…「相続税で台無し」になる家庭が増えている
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』を出版し、遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から贈与税の新ルールが始まるため、その注意点を聞きました。
Photo: Adobe Stock
マンション価格が上がった! でも「相続税で台無し」になる家庭とは?
2025年現在、相続の現場では、相続時精算課税制度を利用した方がよいのかどうかというご相談が、大きく増えています。年末年始が近づき、相続について話す機会も増えるかもしれませんね。本日は相続のトレンドについてお話しします。
2024年の税制改正の内容が徐々に浸透し、「自分たちも見直した方がよいのではないか」と考える方が増えてきている、という印象を受けます。
相続相談にいらっしゃるのは、相続税のかかる方々が中心で、全体としては、財産が概ね1億円前後の方が最も多い層です。暦年課税でコツコツと贈与を続けてこられた方が、「このまま続けてよいのか」「相続時精算課税に切り替えた方がよいのか」といったご相談に来られるケースも多く、また、これから贈与を始めようとしている方も少なくありません。
その背景には、ここ数年の資産価格の上昇があります。近年は、土地の価格が大きく上がっているほか、株価も上昇傾向にあります。そのため、これまでは「うちは相続税なんて関係ない」と思っていらした方でも、「このままだとギリギリ相続税の対象になってしまいそうだ」という状況になってきているケースがかなり増えています。
土地の価格そのものが上がっているうえ、建物の価格も上昇しており、二重の意味で評価額が押し上げられている状態です。都内のマンション価格高騰のニュースなどはよく目にしますが、実務の感覚としても、評価額がじわじわと引き上げられていることを強く感じます。
こうした状況の中で増えているのが、「暦年課税から相続時精算課税に切り替えた方が得なのかどうか」というご相談です。110万円の非課税枠の範囲内で贈与したいという方が一番多いのですが、暦年課税の場合、相続開始前7年間の贈与については相続財産に持ち戻されるため、その期間内に贈与者が亡くなると相続税の対象になります。
一方で、相続時精算課税を選択しておけば、その時点から将来の相続税の負担を軽減する効果が生じます。2024年1月1日以降、相続時精算課税制度を選択した場合、年間110万円までの非課税枠が新設されるので、年間110万円までの贈与は非課税となり、申告義務も無くなりました(選択した年は、選択の届出が必要)。
さらに、将来相続が発生したときに、非課税枠内で贈与した分は相続財産に足し戻さなくてもよいこととされましたので、年間110万円までであれば完全に非課税にできます。そのため、「現状では相続時精算課税の方が有利と考えられます」というご説明をする場面が増えています。
(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)







