ヴァイオリン奏者写真はイメージです Photo:PIXTA

「生まれつきの才能が結果を左右する」そんな思い込みに、心理学は疑問符をつける。エリート音楽家やプロアスリートの歩みをたどると、能力よりも重要な要素があったという。データと事例を通してこの問いを掘り下げていく。※本稿は、ジャーナリストのマルコム・グラッドウェル、桜田直美訳『Outliers 思考と思考がつながる 最適解がみえる頭の主になる方法』(サンマーク出版)の一部を抜粋・編集したものです。

生来の才能は本当に存在するのか
ギフテッドの調査で意外な結果に

 ほぼ一世代の長きにわたり、全世界の心理学者が、ほとんどの人はもう決着がついたと考えているある疑問について、熱い議論をくり広げてきた。それは、「持って生まれた才能というものは存在するのか?」という疑問だ。

 もちろん答えは「存在する」だろう。アイスホッケーでは一年のうちに早く生まれた選手がプロになりやすいという事実があるにせよ、1月に生まれたすべてのアイスホッケー選手がプロになれるわけではない。プロになれるのは、1月生まれの一部だけ――それはつまり、持って生まれた才能のある人たちだ。

 成功とは、才能と準備の組み合わせだ。しかし、この考え方にも問題はある。心理学者がギフテッドと呼ばれる人たちのキャリアを詳細に観察したところ、持って生まれた才能の役割は思ったよりも小さく、準備の役割が思ったよりも大きいという結果になったからだ。

 まず1つ目の証拠を提示しよう。1990年代の初めに、心理学者のK・アンダース・エリクソンと2人の同僚が、エリートの集まりであるベルリンの音楽アカデミーを対象に研究を行った。