練習時間はライバルよりもはるかに少ないのに、楽々とトップに躍り出るような音楽家はいなかった。その一方で、他の誰よりも練習しているのにトップクラスになれないような「ガリ勉」タイプも見つからなかった。

 彼らの研究からわかるのは、トップクラスの音楽学校に入れるような能力があるなら、そこから先の道を分けるのは練習量だということだ。そう、単純な話だ。それに加えて、トップに立てる人は、練習量が他の人よりもただ多いのではなく、かなり多いのでもない。比較にならないほどはるかに多いのだ。

卓越したスキルは時間で磨かれる
研究から判明した「魔法の数字」

 卓越した技術で複雑なタスクをマスターするには、絶対にこなさなければならない、必要最低限の練習量がある――これは、専門スキルに関する研究をするたびに浮上する考え方だ。実際、研究者たちは、真に一流のスキルを獲得するための「魔法の数字」が存在すると信じている。それは、1万時間だ。

そのような研究から浮かび上がるのは、世界クラスの専門家と呼ばれるレベルのスキルを身につけるには、1万時間の練習が必要だという結論だ。この結論はあらゆる分野にあてはまる」と、神経科学者のダニエル・レヴィティンは書いている。

「あらゆる研究で、最終的にはこの数字が出現する。対象が作曲家でも、バスケットボール選手でも、小説家でも、スケート選手でも、コンサートピアニストでも、チェス選手でも、犯罪の天才でも同じことだ」

「もちろん、この結果だけでは、同じ練習量で成果に違いが出ることの説明にはならない。しかし、1万時間に満たない練習量で真に世界クラスの専門家になったという例は、これまで1度も発見されていない。どうやら人間の脳は、この長さの時間をかけないと、真に卓越したスキルを身につけるために必要なものをすべて吸収することはできないようだ」

 この法則は、いわゆる「神童」と呼ばれる人たちにもあてはまる。たとえば、モーツァルトがわずか6歳で作曲を始めたというのは有名な話だ。しかし、心理学者のマイケル・ハウは、著書の『天才の正体(Genius Explained)』の中で次のように書いている。