貯金が思うように増えないのは、収入の問題でも、大きな浪費のせいでもない。実は、多くの人が無自覚のまま続けている“たったひとつの習慣”が、長期的に見ると資産形成を大きく阻んでいるという。世界的ベストセラー『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』が警告する、「一生お金が貯まらない人」の特徴とは何か。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

【あなたは大丈夫?】「まったくお金が貯まらない人」の残念な特徴Photo: Adobe Stock

お金が貯まらない人がはまっている「意外な落とし穴」

「なぜか貯金が増えない」「大きな浪費をしているわけでもないのにお金が残らない」。

そんな“心当たりのある人”ほど、実は重大な落とし穴にはまっている可能性がある。

世界中で読まれている『アート・オブ・スペンディングマネー』が示すのは、もっと根本的で、しかも気づきにくい原因だ。著者は、本書の中でこう警告している。

小さく、軽視してしまいやすい出費も、時間の経過とともに積み重なると、一番目立つ大きな利益を圧倒するほど大きな額になるのだ。
――『アート・オブ・スペンディングマネー』(p.303)

1回数百円の支払いは、無害に見える。「これくらいなら問題ない」「小さな楽しみを我慢しても意味がない」――。多くの人がそう感じている。しかし、その油断こそが“貯まらない人生”をつくる落とし穴だ。

「ラテ1杯」がフェラーリに化ける?

『アート・オブ・スペンディングマネー』では、こんな印象的なエピソードが紹介されている。ある男性が、同僚の女性がラテを飲んでいるのに気づいたときの話だ。

「どれくらいの頻度でラテを飲んでるの?」と彼が尋ねると、「毎日よ」と同僚は答えた。
「すごい! 会社員になってから30年間、毎日ラテを飲んでるの? 合計したらすごい金額になるぞ。1日1杯ラテを飲めば、年間で約1900ドル。もしそのお金を8パーセントの利回りで投資していれば、今頃25万ドルになっている。フェラーリが1台買える額だ」
同僚は困惑した表情を浮かべ、「あなたはラテを買う?」と男性に尋ねた。
男性は「買わない」と答えた。
「じゃあ、あなたのフェラーリはどこにあるの?」
――『アート・オブ・スペンディングマネー』(p.304)

この会話が示すのは、「ラテをやめればフェラーリが買える」という単純な話ではない。誰の生活にも、“積み上げればフェラーリ級”になる小さな支出が必ず存在するという点だ。

男性もフェラーリを持っていない。つまり、ラテではない“別の小さな無自覚支出”を積み重ねているのである。

毎朝のカフェ代、惰性で続くサブスク、コンビニの“ちょっとした買い物”。ひとつは数百円でも、年間数万円、30年なら数百万~数千万円規模になる。

なんとなく使っている「小さな支出」が未来を奪う

重要なのは、コーヒーをやめるべきかどうかではない。その支出が、自分の価値観にもとづいた“意志ある支払い”なのかという点だ。

『アート・オブ・スペンディングマネー』が伝える本質は「小さな出費を削れ」ではない。「小さな出費に気づける人が、長期で豊かになる」ということである。

幸福を高める支出なら続ければいい。しかし、“なんとなく続けているだけ”の支出は、長期的に大きな機会損失を生む。

収入の多寡でも、大胆な浪費でもない。日々の小さな判断の積み重ねこそが、将来の資産を決定づけるのだ。小さな“無自覚な支出”を放置すること――それこそが、「一生お金が貯まらない人」の特徴なのである。

今日のコーヒー1杯は、本当に“あなたの人生を良くする1杯”だっただろうか。それとも、ただの惰性だっただろうか。

この“わずかな差”が、10年後のあなたの資産に決定的な違いを生むのだ。

(本原稿は、『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』(モーガン・ハウセル著・児島修訳)に関連した書き下ろし記事です)