【老朽マンションはもう限界】20年に一度の大改正で、何が起きる?
2025年の区分所有法改正は、細かな修正ではなく約20年に一度の「骨格を動かす」大改正です。令和8年(2026年)宅建試験への影響は避けられません。その背景は何なのでしょうか。本記事の書き手は棚田健大郎さん。1年間必死に勉強したのに宅建に落ちた経験をきっかけに、「勉強が苦手な人でも続けられる方法を作ろう」と決意。棚田さんの勉強法をまとめた『大量に覚えて絶対忘れない「紙1枚」勉強法』の刊行を記念して、本記事をお届けします。
Photo: Adobe Stock
老朽マンションはもう限界……。法律改正でどうなる?
来年の宅建試験に大影響!大量の法改正の波が押し寄せる――こういう話を聞くと、「また改正か」と身構える方も多いと思います。ただ、今回の区分所有法改正は、いわゆる細かな手直しではありません。約20年に一度の“本気の大改正”が、いよいよ現実に迫っています。
まず押さえておきたいのは、今回の改正が“20年に1度”の大改正に位置づくという点です。区分所有法ができたのは1962年(昭和37年)。そこから約20年後の1983年(昭和58年)に1回目の大改正があり、さらに約20年後の2002年に2回目。そして今回2025年、約20年ぶりの3回目の大改正という流れになっています。つまり、制度の骨格を見直すタイミングが来た、ということです。しかも施行は2026年4月予定。ここが試験目線では決定的で、宅建試験は「施行されている法令」を前提に出題されますから、2026年4月に施行されるなら、令和8年(2026年)の宅建試験に影響が出るのはほぼ確実です。
老朽マンションが多すぎる!
では、なぜここまで大きく変える必要があるのか。理由は大きく2つあります。ひとつは、マンションがとにかく古くなっていること。マンションストックは増え続け、2024年末時点で総数は約713万戸規模。築40年以上の分譲マンションも約148.3万戸と非常に多く、10年後にはこれがさらに約2倍、20年後には約3.3倍に増えるとも言われています。この数字が示すのは、単に「古い建物が増える」という話ではありません。外壁タイルが落ちる、漏水する、事故の危険が増える、といったリアルなリスクが高まり、同時に「どうやって修繕・再生を決めるのか」という意思決定の問題が一気に重くなるということです。
所有者が高齢化。外国人投資家も増えている
もうひとつの理由は、区分所有者側の高齢化と、所有者構成の変化です。所有者が高齢化すれば、総会に出てこられない、役員の担い手がいない、修繕の議論が進まない、という壁にぶつかります。さらに近年は外国人投資家の所有も増えています。都内を中心に、日本の不動産が投資対象として買われるケースが増えた結果、連絡が取れない、議決権行使書も委任状も出てこない、というトラブルが現場で起きています。
住むために買う人と違い、投資商品として持っている人にとっては、管理運営は優先順位が低いことも多い。そうなると、管理組合側は意思決定ができず、建物は老朽化していくのに止まったままになる。今回の改正は、この「決まらない」「進まない」を制度としてどうにかするための改正だ、と理解すると腑に落ちます。
改訂の主なポイントは4つ
改正の全体像は広いのですが、講義内容を踏まえて私なりに大きくまとめると、主なポイントは4つに整理できます。集会決議を円滑化するためのルール整備、所有者不明の専有部分にどう対応するかという管理制度、管理組合法人が区分所有権を取得できる仕組み、そして外国人所有者の増加を背景にした国内管理人の制度です。
国内管理人は実務的なインパクトが大きく、海外にいても日本のマンションは買える一方、管理組合からすると連絡先が実質不明、意思決定に参加しない、という状況が続くと運営が詰むので、本人に代わって国内で実務対応ができる窓口を置く仕組みを整える、という趣旨になります。
ただ、ここから先が本番です。試験にも直結し、実務でも最も効いてくると感じたのが、「集会決議の円滑化」、中でも“出席者多数決”の採用です。ここは本当に重要です。なぜなら、今の分譲マンションの総会は、決議に参加しない無関心層の存在が、意思決定を止める最大のボトルネックになっているからです。私自身、以前住んでいた分譲マンションで理事長を経験したことがあり、参加しない人が一定数いる現実は痛いほど分かります。人数が多いマンションほど、「総会に出ない」「委任状も議決権行使書も出さない」という人が必ず出てきます。そして、従来のルールだと、その“何もしない人”まで含めて決議の分母が構成されてしまうので、結果として可決しにくい構造になっていたのです。
従来はざっくり言うと、分母が「全区分所有者(全議決権)」でした。つまり、出席者だけでなく、欠席して意思表示もしない人まで分母に入ってしまう。これだと、現場では「決めたくても決まらない」が常態化しやすい。一方で改正後は、原則として分母が「出席者」になります。ここでいう出席者には、総会に実際に出ている人だけでなく、議決権行使書を出した人、委任により議決権を行使した人も含まれます。言い換えると、欠席して何も出さない人は、決議計算上“自動的に反対”として扱われにくくなる方向に変わる、ということです。
ただし区分所有権の処分を伴うような決議など、重大なものは除外されますし、特別決議では極端に出席者が少ない状態で決まってしまうのを避けるため、一定の定足数が求められる場面もあります。それでも、普段の運営に関わる決議が「全員ベース」で止まり続ける状態を緩和する効果は大きいと感じます。もう、現場目線で言えば「何も言わないなら、とりあえず足を引っ張る形にならないようにする」という方向への転換です。これが制度として入ってくるのは、実務的にもかなり現実的な処方箋だと思います。
結局のところ、今回の改正は「老朽化が進むマンションが増え、所有者も高齢化・多様化して、従来の合意形成ルールでは限界が来た」という現実に制度が追いつくためのものです。現場の不動産業者にとっては“今後の運営ルールが変わる”という意味で、どちらにとっても無視できない内容です。まずは大枠を押さえ、その中でも出席者多数決の採用のような「構造を変える改正」から優先して理解していく。これが、改正の波に飲まれずに乗りこなすための最短ルートだと思います。
(本原稿は、『大量に覚えて絶対忘れない「紙1枚」勉強法』の著者の寄稿記事です)







