“少し足りない”ことこそ儲けの秘訣
定価販売がほぼ100%!

人気アイテムは発売と同時に、即完売となるケースもある。(HUMAN MADE公式オンラインショップより)人気アイテムは発売と同時に、即完売となるケースもある。(HUMAN MADE公式オンラインショップより)
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 では、この高い利益率はどこから生まれるのか。その答えは、「小ロット×限定生産×売り切り(値引きしない)」という明確なビジネスモデルにある。山和証券の志田憲太郎さんは、HUMAN MADEの強みをこう説明する。

「常に“少し足りないくらい”の数量で商品を投入する。だから価格が高くても売れ、在庫が残らない。結果として、営業利益率は非常に高くなります」

 一般的に、アパレル企業の利益を最も圧迫するのは、在庫処分のためのセールだ。売れ残りが増えるほど値引き幅は拡大し、粗利は低下し、利益率も下がっていく。ところがHUMAN MADEは、値引き販売をほとんど行っていない。

 この一点だけでも、同社の事業体質が他のアパレル企業と大きく異なることがわかる。もちろん、値引きをしないこと自体は簡単に聞こえる。しかし現実には、値引きせずに売り切るためには、次の4つの要件を同時に満たす必要がある。

(1)需要予測…作りすぎない。
(2)供給制御…小ロットで柔軟に調整する。
(3)発売設計…買いたくなるタイミングと商品構成を設計する。
(4)ブランド力…高くても欲しいと思わせる理由がある。

 HUMAN MADEの強さは、これら4つをコントロールできている点にある。だからこそ、高い利益率を持続的に実現できているのである。

ほとんどの人が知らないというブランディング
知名度の偏りこそ最強の武器に!

 また、志田さんが指摘するHUMAN MADEの面白さは、知名度の偏りにある。

「テレビCMや雑誌広告など、いわゆるマス向けの広告はほとんど使っていません。SNSと口コミが中心なので、知らない人は本当に知らない。でも、ファッションが好きな人はみんな知っているという、独特の立ち位置にあります」

 この「知らない人は知らない」のが、実は投資の観点では強い。マス向けに広げれば売上は伸びやすいが、同時にブランドの希少性が薄まる。誰もが知っていて誰もが買える商品は、値引き圧力が高まりやすく、利益率が下がりやすい。HUMAN MADEは逆で、濃い層に深く刺すことで、高値・完売を成立させる。結果として、利益率が保たれるのだ。

 一方で、創業者NIGO氏の「世界的な」知名度はさらに高まり、ブランドの自然拡散を強力に後押ししている。アドバイザーを務めるファレル・ウィリアムス氏との関係性を通じて、海外での認知度は着実に高まってきた。実際、ファレル氏が手掛けるLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)のショーでHUMAN MADEのTシャツが着用されるなど、広告に頼らずともブランドが自然発生的にグローバルへ広がっている点は象徴的だ。

ポップカルチャー界で絶大な知名度を誇る4人のキーパーソンが、HUMAN MADEを支えている。その筆頭が、同社の第2位株主でもあるファレル・ウィリアムス氏だ。アーティスト兼ファッション・デザイナーである彼は、これまでにグラミー賞を13回受賞。アカデミー賞やゴールデングローブ賞、エミー賞にもノミネートされた輝かしい実績を持つ。2023年にはLOUIS VUITTONのメンズ クリエイティブ・ディレクターに就任した。インスタグラムのフォロワー数は1550万人を超える(HUMAN MADE公式ホームページより)。ポップカルチャー界で絶大な知名度を誇る4人のキーパーソンが、HUMAN MADEを支えている。その筆頭が、同社の第2位株主でもあるファレル・ウィリアムス氏だ。アーティスト兼ファッション・デザイナーである彼は、これまでにグラミー賞を13回受賞。アカデミー賞やゴールデングローブ賞、エミー賞にもノミネートされた輝かしい実績を持つ。2023年にはLOUIS VUITTONのメンズ クリエイティブ・ディレクターに就任した。インスタグラムのフォロワー数は1550万人を超える(HUMAN MADE公式ホームページより)。
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コアなファンをグローバルで獲得する
“グローバルニッチ”企業に!

 さらにもうひとつ、他のアパレル上場企業とHUMAN MADEが違う点として、風早さんが挙げるキーワードは、“グローバルニッチ”である。重要なのは、日本市場だけを前提にしない点だ。国内で1万人規模のコアなファンに支持されるブランドであっても、世界に広がれば、50万人、100万人規模へと拡張する余地がある。そのうちの一部が継続的に購入するだけでも、事業としては十分に成立するという考え方だ。そして、この戦略を現実のものにしたのが、SNSの存在だという。風早さんはこう語る。

「SNSとパーソナライズドマーケティング(個々の嗜好に合わせた情報発信)の進化が決定的でした。かつての海外展開は、“太平洋に小舟を浮かべて顧客を探す”ようなものでしたが、現在では、刺さる相手に、刺さるコンテンツを、国境を越えて直接届けることが可能になっています」

 実際、HUMAN MADEの海外売上高比率はすでに60%を超えている。また、これを可能にしているのが、SNS×D2C(Direct to Consumer)モデルだ。D2Cとは、百貨店や量販店などの卸売を介さず、自社ECや直営店舗を通じて、顧客と直接つながる販売モデルを指す。これにより、価格や販売数量を自らコントロールできるだけでなく、ブランドの世界観や希少性を損なうことなく成長することができる。

 従来のアパレル企業の海外展開は、「大量生産・大量販売」が前提だった。一方、HUMAN MADEは「少量の商品を、世界で深く売る」戦略をとる。だからこそ、国内売上が小さくても、市場価値の上限が日本市場の天井に縛られにくい。この点が、株式市場で高く評価されている理由のひとつなのである。

インスタグラムのフォロワー数が約5300万人にのぼるK-POPグループBTSのメインダンサーでリードラッパーを務めるj-hope(ジェイホープ)が普段からHUMAN MADEを愛用していることをきっかけに、両者のコラボレーションアイテムを11月に発売した。アイテムはすでにほぼ完売している。(j-hope公式インスタグラムより)インスタグラムのフォロワー数が約5300万人にのぼるK-POPグループBTSのメインダンサーでリードラッパーを務めるj-hope(ジェイホープ)が普段からHUMAN MADEを愛用していることをきっかけに、両者のコラボレーションアイテムを11月に発売した。アイテムはすでにほぼ完売している。(j-hope公式インスタグラムより)
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HUMAN MADE株はまだ買えるのか
株価は適正な水準だが海外展開次第では上がる!

 風早さんは「HUMAN MADEは、単純な売上規模では測れない評価軸で見られている」と指摘する。株式市場が注目しているのは足元の業績そのものではなく、「どの市場を取りにいけるのか」「成長の上限はどこにあるのか」という将来像と期待であり、それが時価総額に反映されているというわけだ。

 もっとも、投資家にとって最大の関心事は、現在の株価水準がその期待に見合っているかどうかである。小林さんは、時価総額が約1000億円、予想PERが約40倍という水準について、「成長期待はすでにかなり織り込まれており、決して割安ではない」とみる。一方で、高い利益率やブランド力、海外展開の余地を踏まえれば、一定のプレミアムが付くこと自体は不自然ではなく、今後は決算内容や海外展開の進捗次第で評価が大きくブレやすい局面に入るとも指摘する。

 今後の分岐点は明確だ。仮に海外展開の伸びが鈍化し、利益率が低下して値引き圧力が強まり、ブランドの希少性が薄れて「いつでも買える存在」になれば、評価は切り下がり、PERは他の大手アパレルと同水準の15倍前後まで低下する可能性があると、志田さんは予測する。

 逆に、海外店舗の成功や海外売上高の拡大が実現すれば、PER40倍前後の評価が維持、あるいは拡大する余地もある。ただし、それは容易ではない。志田さんは「日本のアパレル企業は、上場後に海外展開を目指しても、オペレーション面の課題などから思うように成果を上げられなかった例が多い」と注意を促す。

 もっとも、過去と異なる点もある。風早さんが指摘するように、SNSによる認知拡大や越境ECの進化により、“グローバルニッチ”なアパレル企業が成長しやすい環境は整いつつある。

 こうした成長を支える要素として、上場の意義も小さくない。「成長を継続できる組織かどうか」という観点では、上場によって人材が集まりやすくなり、経営の選択肢が広がる点はプラスだと小林さんは指摘する。HUMAN MADEの課題とされるオペレーション強化には、結局のところ「人」と「仕組み」が欠かせないからだ。

 風早さんも、クリエイティブと経営を分離し、経験豊富な人材をそろえている点を評価しており、ファッション企業にありがちな「アイデア先行でスケールできない」構造を避ける体制が整いつつあるとみている。

HUMAN MADEの経営陣は、ブランド構築、財務、戦略の各分野で実績を持つ。CEO兼COOの松沼礼氏はファーストリテイリングでUT事業の成長を牽引し、マーケティングに精通する。CFOの柳澤純一氏は公認会計士としてIPOやM&Aなどに携わってきた財務の専門家だ。CSOの鳩山玲人氏は三菱商事、サンリオで戦略・海外展開を主導し、複数の上場企業で社外取締役を歴任。グローバル成長を支える布陣が整う。(HUMAN MADE公式ホームページより)HUMAN MADEの経営陣は、ブランド構築、財務、戦略の各分野で実績を持つ。CEO兼COOの松沼礼氏はファーストリテイリングでUT事業の成長を牽引し、マーケティングに精通する。CFOの柳澤純一氏は公認会計士としてIPOやM&Aなどに携わってきた財務の専門家だ。CSOの鳩山玲人氏は三菱商事、サンリオで戦略・海外展開を主導し、複数の上場企業で社外取締役を歴任。グローバル成長を支える布陣が整う。(HUMAN MADE公式ホームページより)
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PERが30倍前後まで
株価が下落したら買いチャンス!

 以上を踏まえると、売買戦略は次のようなものだ。HUMAN MADEの株価はすでに高い成長期待を織り込んでおり、足元で高値を追いかける局面ではない。小林さんは、全体相場の下落などによる調整局面で、予想PERが30倍前後まで低下する場面があれば買いの好機になると指摘する。市場での過熱感が一巡したタイミングで拾うのがおススメだ。

 押し目買いのポイントは、海外売上高が減少していないかどうかである。海外展開の成長が維持されていれば、調整は一時的なものにとどまる可能性が高い。一方で、海外での店舗拡大やM&Aによる多ブランド展開など、成長ストーリーを裏付ける材料が出てくれば、市場の評価が再び切り上がり、PERが拡大する余地もある。

 結局のところ、HUMAN MADEへの投資判断は株価水準に加え、「グローバルニッチ戦略が実際の数字として積み上がっているか」を見極められるかどうかにかかっている。短期的な調整でPER30倍前後の水準となり、かつ海外成長が確認できれば、そこが「買い」のサインだ。

本記事は2025年12月17日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。