11月27日、ストリートブランド「HUMAN MADE(ヒューマンメイド)」が新規上場(IPO)を果たした。創業者は世界的ファッション・デザイナーであり、女優・牧瀬里穂の夫としても知られるNIGO(長尾智明)氏だ。市場を驚かせたのは、その時価総額である。上場後に一時1000億円を突破し、売上規模で約10倍の差があるアパレル大手・ユナイテッドアローズ(時価総額約700億円)を上回った。 なぜHUMAN MADEはこれほど高い評価を得ているのか。そして、株価は今後も伸びるのか。プロ3人に今後の予測を聞いた。(今村光博、ダイヤモンド・ザイ編集部)

※株価や業績データは2025年12月12日時点。企業名の後の( )内は株式コード。

NIGOの会社が時価総額1000億円を
達成できた理由って?

 いま株式市場で、あるアパレル企業が話題を呼んでいる。それがHUMAN MADE(456A)だ。売上規模は137億円と大手アパレルのユナイテッドアローズ(7606)の10分の1程度。それにもかかわらず、時価総額ではHUMAN MADEが上回るという逆転現象が起きている。

(HUMAN MADE公式ホームページより)(HUMAN MADE公式ホームページより)
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 時価総額とは「株価×発行済株式数」で算出される企業の市場価値であり、事業の成長性や収益力に対する期待が強いほど高くなる。IPOから2週間程度たった12月12日時点で、HUMAN MADEの時価総額は992億円。一方、予想売上高が約12倍(1657億円)のユナイテッドアローズは706億円、売上高が約22倍(3000億円)に達するワールド(3612)でさえ1098億円にとどまる。

 この高い評価を支えているのは何か。当然、個人投資家の人気もある。しかし注目すべきは、国内外の機関投資家が株主として名を連ねている点だ。なかでも、ザイ・アナリストの小林大純さんが注目するのが、みずほフィナンシャルグループ傘下の資産運用会社・アセットマネジメントOneの保有だ。

「短期志向の投資家ではなく、中長期で成長株のリターンを取りにいく機関投資家です。そうした運用スタイルの投資信託で実績を上げてきた運用会社が買っていることからも、HUMAN MADEに対する市場の注目度は非常に高いといえます」

 では、なぜHUMAN MADEは、売上規模で大きく上回る大手アパレルと肩を並べる時価総額評価を得ているのか。株式市場がHUMAN MADEを高く評価する理由と今後同社株で儲けるための売買戦略をプロに聞いた。

アパレル業界の常識を超える
営業利益率が高評価の理由

 近年、ファーストリテイリング(9983)のようにグローバル戦略で成功する一部の大手を除き、日本のアパレル企業に対する投資家の評価は総じて低かった。「ファッションは成長産業ではない」「若者は服にお金を使わない」「ユニクロで十分」といった見方が、市場では長らく支配的だったのだ。

 大手百貨店での勤務経験もあるUBS証券の風早隆弘さんは、アパレル業界を取り巻く環境についてこう指摘する。

「娯楽が多様化し、消費者の時間と財布を奪い合う時代において、衣料品の優先順位は確実に下がってきました。人口減少も追い打ちをかけ、日本のアパレル企業は長らく“縮小市場”の代表格と見なされてきたのです」

 しかしそんな逆境下、HUMAN MADEが約1000億円という時価総額を付けたのはなぜか。

 その評価を支える要因のひとつが、同社の際立った収益力である。2026年1月期の予想営業利益率は27.8%。「営業利益率10%未満」が大半を占めるアパレル業界の中で、突出した水準なのだ。特に時価総額が同程度のアパレル企業と比較すると、その差は明らかだ。ワールドは6.5%、ユナイテッドアローズ5.4%、オンワードホールディングス(8016)は5.0%にとどまる。高い利益率を誇るといわれるユニクロのファーストリテイリング(9983)ですら、営業利益率は16.3%。同じ「服を売るビジネス」でありながら、利益率に大きな差がある。

 株式市場がHUMAN MADEの評価にプレミアムを付けている理由も、ここにある。

時価総額上位および近年上場した主なアパレル企業のリスト。多くのアパレル企業が営業利益率10%未満にとどまる中、HUMAN MADEは27.8%と非常に高い。これはファーストリテイリングの16.3%をも大きく上回る水準。時価総額上位および近年上場した主なアパレル企業のリスト。多くのアパレル企業が営業利益率10%未満にとどまる中、HUMAN MADEは27.8%と非常に高い。これはファーストリテイリングの16.3%をも大きく上回る水準。
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 ではなぜ利益率の高さが重視されるのか。それは次の2点に直結するからだ。

(1)成長余力がある――新店舗の出店や海外展開、EC(ネットショップ)などへの投資を行っても、利益を伸ばせる。

(2)不景気に強い――景気変動などで売上が落ちても、利益を確保しやすい。

 つまり、売上規模が小さくても、「利益を継続的に生み出せる構造」を持つ企業ほど、市場価値は高くなりやすい。HUMAN MADEは、その典型例として評価されているのである。