建物群は巨大で、往時の賑わいを偲ばせる。と同時に、老朽化と汚れが目立ち寂寥感が広がる光景だ。

鬼怒川温泉の廃墟ホテル群が暗示する「インバウンド依存」の観光地の末路廃虚と化した「きぬ川館本館」や「鬼怒川第一ホテル」の全景 Photo by Hiroki Maebayashi

 なぜ、解体されず廃虚のままなのか? 建物は老朽化が進み、建材に使用されたアスベストが飛散している可能性も指摘され、内部は相当危険と指摘される。クマをはじめとした野生生物が住み付くリスクもある。大雨で崩落する恐れもあり、一刻も早い対策が必要だ。

 しかし、渓流沿いという独特な立地も相まって、解体撤去費用は「1棟、数億円はする」と指摘される。また、周囲が心配するのは、源泉に何らかの影響が出る可能性だ。他にも、廃墟群のすぐそばを通る国道122号線の交通に悪影響を与えることも考えられる。「そもそも、地権者に連絡が付かないケースばかり」という嘆きの声も……。

 さらに北へ進み、鬼怒川公園駅前の鬼怒岩橋から下流を撮影した。渓谷の奥に、巨大な「鬼怒川グリーンパレス」(1973年開業、2015年休業、収容人数約650名)がそびえ立っている。

鬼怒川温泉の廃墟ホテル群が暗示する「インバウンド依存」の観光地の末路「鬼怒川グリーンパレス」はこの界隈でもひときわ巨大だ Photo by Hiroki Maebayashi

 近くまで行くと、窓ガラスが割れ、屋根瓦が崩れていた。同ホテルは2015年から休業中で、再開の見込みは立っていない。

鬼怒川温泉の廃墟ホテル群が暗示する「インバウンド依存」の観光地の末路崩れ落ちそうな屋根瓦が怖い…… Photo by Hiroki Maebayashi
鬼怒川温泉の廃墟ホテル群が暗示する「インバウンド依存」の観光地の末路窓ガラスが割れている Photo by Hiroki Maebayashi

 旅館だけでなく、みやげ物屋や飲食店も廃虚が散見された。鬼怒川温泉では旅館組合がJTBと共同で、観光客が宿泊先以外で食事する「泊食分離」のプロジェクトを始めているが、肝心の飲食店の選択肢が限られている。夜間営業の店が非常に少なく、疑問に感じた。

鬼怒川温泉の廃墟ホテル群が暗示する「インバウンド依存」の観光地の末路みやげ物屋や飲食店も廃虚が散見された Photo by Hiroki Maebayashi
鬼怒川温泉の廃墟ホテル群が暗示する「インバウンド依存」の観光地の末路まるで昭和にタイムスリップしたような光景。街だけが老いていく寂しさを覚えた Photo by Hiroki Maebayashi