インバウンド頼みは
「第二の鬼怒川」を招く
鬼怒川温泉の廃墟群は、コロナ禍以降インバウンド特需に沸く各地の観光地にも、「ターゲットの絞り込みすぎは衰退を招く」という警告を出している。
海外の観光地の例にはなるが、中国人向けホテルやカジノが盛んだったカンボジアのシハヌークビルは、中国人観光客が激減した打撃で、街には廃墟が立ち並んでいる。※後の関連記事を参照
街の飲食店は中国人向けばかり、国際ブランドのクレジットカードさえ使えないなど、他の国からの観光客にターゲットを変えるのも厳しい状況に陥っている。まるで30年前の鬼怒川温泉が、カンボジアで再現されているような光景といってもいいかもしれない。
鬼怒川と対照的なのが、静岡県の熱海温泉だ。一時は人気が低迷したが、復活に向けて最初にターゲットにしたのは、SNSによる拡散力が狙える日本人の若者だった。それが成功した後、シニア層にもターゲットを広げている。24年の年間観光客数は300万人を集めた。
もちろん熱海も今ではインバウンドを取り込もうとしているが、それと同時に、ビジネスマン向け展示会の開催などで平日の需要喚起にも取り組み、ターゲットを分散する戦略を進めている。バブル期に団体客に頼った弊害をよく知る熱海だからこそ、同じ轍を踏まないようにしているのだ。
円安効果でインバウンドが急増しているが、インバウンド頼みは大きなリスクを伴う。日本人を含め幅広いターゲットを具体的に設定し集客することが、観光地の健全な発展には必要だ。
中国が日本への渡航自粛を促している今こそ、各観光地は多様なターゲット設定で、「第二の鬼怒川」「日本のシハヌークビル」とならないように気を付けたい。
なお観光庁は、温泉地などで長年放置されている廃旅館の撤去費用の一部を補助する制度を26年度に創設する検討に入ったと報じられた。この制度が鬼怒川で活用されるのを願うばかりである。
日光市のふるさと納税を活かした鬼怒川温泉再生基金の設立や、官民を挙げてのPR戦略など他にもできることはあるはずだ。幸い知名度は高い。熱海に続く、温泉街の再生になることを祈りたい。







