ターゲットを絞りすぎた
団体客頼みの構造

 なぜ鬼怒川温泉には廃墟だらけの寂しい光景が広がるのか。先述した解体撤去の難しさの背景にもなるが、バブル崩壊後の景気低迷、足利銀行の倒産で融資が滞ったといった要因が挙げられる。

 中でも筆者が最も気になるのが、団体客や社員旅行などのターゲットに特化し過ぎて、施設を大型化したことだ。

 バブル期の鬼怒川温泉は旅行代理店任せで、宿が営業努力をしなくても、団体客が押し寄せ満室になっていたという。むしろ宿側で誰かが独自の企画を立てると「余計なことをするな」といわれるほどだったとか。食事も大量生産したものを客に「さばく」ように提供していたそうだ。※参考文献は記事末に紹介

 山間の静かな渓谷が魅力の鬼怒川温泉が、そうしたせわしない宿ばかりだったという矛盾に、かなりの違和感を覚えた。個人客には相当、不評だっただろう。

 団体客に特化した大宴会場などの巨大設備を一度作ってしまうと、宿は投資を回収するために、ますます団体客の確保に固執する。これでは、個人客の足は遠のくばかりだ。

 2000年代以降の鬼怒川温泉は、日光の世界遺産登録やインバウンド特需などもあり一時は持ち直したが、コロナ禍で再び大打撃を被った。24年の観光客数は、コロナ禍前に比べて約75万人も減ったままで、立ち直っているとは言いがたい。廃墟の多さも、街全体の心象を悪化させているだろう。

鬼怒川温泉の廃墟ホテル群が暗示する「インバウンド依存」の観光地の末路団体客頼みのホテル旅館経営は危険だ(写真はイメージです) Photo:PIXTA