「3本の矢」からなるアベノミクスの正体が、時間の経過とともに透けて見えてきた。
アベノミクスは、中曽根や小泉の自由至上主義的な経済政策と一線を画するどころか、まったく対照的な国家資本主義にほかならないではないか。官民ファンドの創設、民間企業の設備投資を今後3年間で1割増やすこと、8つの国立大学に今後3年間で外国人教員1500人の採用義務づけ、日本版NIH(アメリカの国立衛生研究所)の創設、原発をはじめとするインフラ輸出の首相によるトップセールス等々、国家が主導する成長戦略の目白押しである。
小泉が壊したはずの旧(ふる)い自民党が、アベノミクスの成功を盾にして、「個人の自由」を踏みにじりかねない憲法改正へとまっしぐらに突き進む。有権者には、自らの思想・信条に照らして安倍政権の是非について判断を下してほしい。拙著『日本経済の憂鬱』がその道案内役を務められることを願う。
5月22日までは株高と円安が順調に進み、株で儲かった(つもりになった)資産家が高級品を購入する、個人消費支出も上向くなど、アベノミクス効果はジワリジワリと浸透しているかのようだった。安倍首相は、成功裏に進捗するアベノミクスに自信満々。2013年5月5日、東京ドームで長嶋茂雄と松井秀樹に国民栄誉賞を授与したのち、ピッチャー松井、バッター長嶋、キャッチャー原辰徳の始球式に、安倍は背番号「96」のユニフォーム姿で主審として登場した。憲法改正の手続きを規定する日本国憲法96条を先行改憲するという不敵な意思表示と見てとれた。
5月23日以降、株式市場と為替市場は乱高下、6月13日には、株価、円ドル為替レートがともに、黒田日銀総裁が「異次元金融緩和」を宣言した4月4日の水準に逆戻りした。元の木阿弥さながらに……。
アベノミクスは空前絶後の壮大な社会実験なのだ。実験の結果が予知不可能なのは当たり前である。目下のところ、安倍首相そして黒田日銀総裁の自信に敬意を払うしかなく、不安で憂鬱な日々を過ごす人が少なくあるまい。
*本記事は『経』7月号にも掲載します。次回からは、『日本経済の憂鬱 デフレ不況の政治経済学』の一部をダイジェストで紹介!
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経済無策からポピュリズムへーー。
アベノミクスのねらいは、小泉構造改革との決別、そして国家資本主義の復活なのだ。
アベノミクスは官主導色が強いという意味でケインズ派的である一方、規制改革にも熱心なところは新古典派的でもある。その本性は「国家資本主義」にあり、個人主義や自由主義、民主主義という普遍的な価値を脅かす憲法改正への通過点かもしれない。
空前絶後の壮大な社会実験であるアベノミクスの是非を考えるうえで、“道案内役”を果たす1冊だ。