「人間関係が崩壊する会社」で知らないうちに進む「静かな危機」『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第44回では、IPO(新規上場)における創業社長のメリットについて解説する。

「人間関係が崩壊」

 Tシャツ専門店「T-BOX」事業を全国展開し、年商45億円企業へと育てた主人公・花岡拳。投資家である塚原為ノ介の提案もあり、IPO(新規上場)について本格的に検討を始めるため、塚原から紹介された証券アドバイザー・牧信一郎との面談を行う。

 花岡から社内の組織構成や自社の強みなどを聞き出す牧。そして花岡に対して、IPOのデメリットとして、社内環境の変化による「人間関係の崩壊」を挙げる。

 特にオーナー社長と創業メンバーが強い形態では、社長以外の側近・腹心がすべて会社を去るケースもあるとして「この状況は、前からいる人にとって異物混入です」と説くのだった。

つまるところ、IPOで社長はもうかるのか?

漫画マネーの拳 5巻P185『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 今回、物語の中では牧がIPOのメリット、デメリットについて紹介している。だがそこで1点だけ触れられていないことがある。それは「社長の金銭的なメリット」だ。

 IPOまでの道のりにはさまざまなケースがあるので、花岡と彼の会社であるハナオカのような「創業者 兼 社長」が1人で起業した場合のもっとも単純な例を挙げる。

 通常、上場時には株式を公開した際、新株を発行して市場で売買するだけでなく、創業者の持っている株式を放出(市場で売却)できる。このタイミングで起業家としてまとまった現金を得られるわけだ。

 とは言っても、社長がIPOで売却できる量は限定的だ。過度な売却は「この会社は成長を諦めた」として市場からネガティブに評価されてしまう。そのため株の売却には「ロックアップ」と呼ばれる制限がかけられる。

 つまりは上場したからといって一気に大金持ちになるとは言い切れず、さらなる成長を描くことが最優先されるのだ。IPOやM&Aをイグジット、出口戦略などと言うのはあくまで未上場企業をターゲットにした投資家の視点であり、社長としての挑戦はむしろこれからなのである。

 また前回も触れたが、現実のスタートアップでは、資金調達時に出口戦略までを織り込んだ事業計画を投資家に説明するのが常だ。IPOを目指すということはある種の「前提条件」とも言える。

 さらに言えば、外部の投資家を招く場合は、エクイティファイナンス――つまり「株式を渡して資金を得る」という手法をとることが多い。外部から資金を得るほどに事業が加速するが、一方で株式が人の手に渡ってしまうということでもある。

 上場に迷う社長に対して、必ずする「ある質問」があると語る牧。花岡の「答え」を聞き、IPOに関する大きな提案をするのだった。

漫画マネーの拳 5巻P186『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 5巻P187『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク