制御性T細胞とはなにか『免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか』(坂口志文、塚﨑朝子著、ブルーバックス、税込1210円)

 コロナ禍を経験した私たちには常識ともいえるが、免疫系とは、体内に侵入したウイルスなどの病原体を排除する仕組みである。ところが、時にこの免疫系が、自分自身の細胞やタンパク質を異物と勘違いして攻撃、排除しようとすることがある。

それが原因の一つとなり発症するのが「自己免疫疾患」と呼ばれる病気だ。関節リウマチや1型糖尿病などがそれに当たる。

 そんな自己免疫疾患につながる、免疫系の暴走を抑えるのが制御性T細胞の役割だ。坂口教授は、京都大学大学院病理学教室に所属して自己免疫疾患の研究の従事する中で、この制御性T細胞の存在を発見した。

人気マンガ『はたらく細胞』に
登場するキャラクターにも

 免疫系の暴走で発症する自己免疫疾患を治療するには、制御性T細胞を「増やす」ことが重要になる。一方で、がんの治療には、制御性T細胞を逆に「減らす」のが有効だという。

 がん細胞は体に害をもたらすが、もともとは自分自身の細胞だ。それゆえ、免疫系ががん細胞を攻撃し排除しようとすると、制御性T細胞が、免疫系を抑えようとして、結果的にがん細胞を守ってしまうのだ。だから、制御性T細胞を減らすのが、がん治療における「正解」なのである。

 そんな制御性T細胞だが、実は坂口教授がノーベル賞を受賞するよりも前に、その存在が医療関係者以外の一部の人たちにはよく知られていた。人気マンガで、アニメ化や実写映画化もされた『はたらく細胞』という作品に登場するのだ。

『はたらく細胞』のストーリーは、赤血球や白血球といった細胞を擬人化したキャラクターが人体内で活躍するというものだが、マンガやアニメに、スーツを着たクールな美女の姿の制御性T細胞が、がん細胞を守ってしまうというエピソードがある。

 寒さがこたえる年末年始、風邪やインフルエンザには十分注意したい。自分の健康を守るために体内で細胞たちがどんなドラマが繰り広げられているのか、想像しながら本書のページをめくってみるのはどうだろうか。