働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。今回は、「女性が定年後も続けやすい仕事」について聞いた。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)

【定年後の仕事】女性が65歳以降も働きやすい仕事とは? データで解説Photo: Adobe Stock

65歳女性の就業率が上がっている

――近年、働くシニアがとても増えていますが、とくに高齢女性の就業率が上がっているそうですね。私の周りでも、「65歳女性に仕事を任せている(小売)」「70代女性の同僚がいる(会計事務所)」といった話はよく聞きます。

坂本貴志氏(以下、坂本):はい。65歳女性の就業率はここ10年で31.8%から44.9%まで増えており、顕著に上昇しています。65歳男性の就業率は62.9%なので、男性よりは低いものの、上昇率は大きいですね。今40代、50代の女性の多くが働いていますから、高齢になっても働く人は多いでしょう。10年後には、65歳や70歳で働くのも普通のことで、働いていない人が少数派という時代になることが予想されます。

――現在、高齢女性が活躍しているのはどういった職種ですか?

坂本: 65歳以上の女性比率が最も高いのは、「介護・保健医療サービス」で、87.6%と約9割を占めます。

次に高いのは「包装」(76.1%)、3位は「接客・給仕」(73.0%)です。

女性比率No.1「介護・保健医療サービス」の実態

――「介護・保健医療サービス」は、資格や体力が必要なイメージがあり、意外に感じる方もいるかもしれません。シニア層が携わっている仕事の具体的な実態を教えてください。

坂本:シニアの方が携わっている介護・保健医療の仕事は、現役世代のものとはちょっとイメージが異なります。必ずしも専門資格を要するわけではなく、比較的軽めの業務を担っている方が多いです。

たとえば看護助手として身の回りのサポートを中心にするとか、介護にしても現役世代のサポートをするようなかたちですね。労働時間も短めです。平均労働時間は週25.5時間で、週14時間以下の方が22.3%います。

勤務日や勤務時間を選びやすく、自由度が高いという特徴もあります。気力・体力は要ると思いますが、高齢女性でもじゅうぶん就労は可能なんです。

――この職種の魅力はどういうところにありますか?

坂本:平均年収は145.3万円で、200万円以上の人も20%程度いますから「短い時間でもそれなりに稼げる」ということと、「人に感謝される」「人の役に立てる」という点です。アンケート調査でも「『ありがとう』と感謝され、頼りにされるとうれしい」というコメントが非常に多く見られました。

一方、「人員が不足していて忙しい」というコメントもあります。70歳以降は就業者が減少することからも、一定の体力が必要であることは間違いないでしょう。

高齢化が進む日本で、この分野の需要は高まる一方です。体力があって、人に感謝される仕事をしたいという方にはぜひ検討していただきたいですね。

軽めの作業を短時間したい人は「包装」

――女性比率が高い他の職種についても教えてください。2位の「包装」はどのような仕事ですか?

坂本:製品の袋詰め、箱詰め、ラベル貼り、ギフト包装、スーパーのバックヤードでのパック詰めなどです。女性比率が7割を占めており、重い荷物を持つなどの業務が少ないことが背景として考えられます。労働時間は短く、週15~21時間働く人が37.7%で最も多いです。それに伴って収入も低めです。年収が100万円未満の人が6割弱となっています。

――軽めの仕事を短時間したいという方に向いていそうですね。

人とのコミュニケーションが好きなら「接客・給仕」

坂本:女性比率3位の「接客・給仕」は、飲食店のホールスタッフや、ホテル・旅館のフロントや接客担当、娯楽施設などにおける接客員などです。人とかかわる側面が非常に強く、利用客との会話や「ありがとう」と言ってもらえることに喜びを感じる人が多いです。人とのコミュニケーションが好きで、職場の人間関係がよければ楽しく働けるのではないでしょうか。

平均年収は112.2万円、平均労働時間は週29.2時間です。

昨今は飲食店でテーブルオーダーやロボットによる配膳を導入する店舗が増えていたり、宿泊業界でも予約システムの導入など機械化が進んでいますから、今後は接客業の仕事内容も機械操作を覚えるなど変化していきそうですね。

(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)

坂本貴志(さかもと・たかし)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。