米・ベラルーシの裏交渉、「やせ薬」も取引材料Photo:Contributor/gettyimages

 その米国特使は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と制裁緩和について交渉するウオッカ漬けの夕食会の最中、個人的な質問を投げ掛けられた。「痩せたか」と。

「その通りだ」とジョン・P・コール特使は答えた。コール氏は、米メタ・プラットフォームズなどのソーシャルメディア運営会社を相手取った訴訟でドナルド・トランプ米大統領の代理人を務めたベテラン法廷弁護士だ。コール氏は、肥満対策に役立つと証明されている注射剤「ゼップバウンド」を使ったおかげだと述べてから、その製造元であるイーライリリーのパンフレットを手渡した。同氏がインタビューで振り返った。

 それは、トランプ氏の政権復帰以降でも特に奇妙な外交交渉における親密な関係を象徴する瞬間だった。ルカシェンコ大統領は、収益力の高い自国の複数の企業に対する多数の制裁を米政府が緩和すること、そして自身の大統領専用機の修理を求めていた。

 その見返りとして、この独裁者――ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に最も近い盟友――は自身が大量に保有する唯一の資源、すなわち政治犯を取引に使う用意があった。コール氏が取引に成功すれば、プーチン氏と2兆ドル(約310兆円)規模のロシア経済を孤立状態から脱却させるというトランプ政権の主要な目標に向けた「試運転」になるかもしれなかった。

 米当局者らは、体重をいくらか減らすことに関心を持つ体格の良い71歳の国家元首を助ける方法があるかもしれないと考えた。ルカシェンコ氏の個人使用のためにゼップバウンドの手配を検討しようと決めた。

「対話の相手が誰かは気にしない」。コール氏は首都ワシントンのロック・クリーク・パークを見渡せるミッドセンチュリー式の邸宅でインタビューに応じ、こう述べた。ルカシェンコ氏と個人的な関係を構築する努力については、西側諸国が嫌悪するタイプの国家指導者に対するトランプ氏のアプローチを反映する意図があると説明した。「これはまさにトランプ流だ。こちらが望むものを相手が提供できるのであれば、対話の相手が誰かはどうでもよい。望むものを得られることが重要だ」

 自らを「欧州で最後まで唯一残った独裁者」と称するルカシェンコ氏は先月、123人の囚人を解放した。その中には、ノーベル平和賞を受賞したアレシ・ビャリャツキ氏や野党指導者のマリア・コレスニコワ氏が含まれていた。トランプ氏が大統領に就任して以降、ベラルーシは拘束していた250人超(出身国は10カ国以上)を解放した。そのうち少なくとも5人は米国の市民権を持っていた。それは共産主義の崩壊以降で最大級の政治犯釈放だった。