量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回は2023年ノーベル物理学賞について抜粋してお届けする。

高校生Photo: Adobe Stock

実は日本は先駆けだった!?

アメリカのグーグルやIBM、マイクロソフト、アマゾンといった巨大IT企業に加え、スタートアップ企業も多く立ち上がり、世界中で研究開発競争が行われている。

こう聞くと、「日本は後追い」と思われがちだが、日本の立場はそんなに単純なものではない。

なぜなら、現在主流である超伝導量子コンピュータの“心臓部”となる「超伝導量子ビット」は、日本で生まれたからだ。

超伝導量子ビットの発見

1999年、当時NECの研究所に所属していた中村泰信と蔡兆申らが世界ではじめて超伝導回路を用いて量子ビットを実現し、量子コンピュータ実現の道を切り開いた。

世界の二周も三周も先を走っていた日本の量子技術だったが、その後に長く続いた不況や基礎研究の縮小、そして実現の難しさのため、2000年代なか頃から停滞期を迎えて研究資金が絞られた。

しかし、中村・蔡らが蒔いた種は世界中の研究者を刺激して着実に芽を出し、育てられてきた。

グーグルは2014年、当時量子コンピュータのデバイス開発の先頭を走っていたジョン・マルチネスのグループを抱え込み参戦し、一気に世界のトッププレーヤーに躍り出た。

IBMは1980年代から量子技術研究を行ってきた老舗であり、2016年に超伝導量子コンピュータをクラウドで公開した。

日本には量子コンピュータが3台ある

この頃になってやっと日本でもプロジェクトが再起動し、2018年には国産量子コンピュータの誕生を目標とするプロジェクトが理化学研究所(理研)を中心に立ち上がった。

それから5年たち、先述したように日本は2023年3月に64量子ビットの国産量子コンピュータ初号機「叡」をリリースした。

それに続く形で、富士通と理研による国産二号機、そして12月には国産三号機が大阪大学で稼働を開始した。
三号機は関西として初、かつ国立大学として初の国産量子コンピュータである。

(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)