景気低迷を背景に、脚光を浴びたディスカウントストア(DS)業態だが、客単価の下落と客数の伸び悩みから、売上高が苦戦する店舗が増えてきている。そうした状況下でも、既存店売上高対前期比2ケタ増と絶好調なのが、“生鮮食材超激安市”を看板に掲げる、タチヤ(愛知県/森克幸社長)だ。当期純利益率も4.6%と高水準を叩き出す。「他社が嫌がる、生鮮強化にすべてを傾けてきた」成果が今、実を結ぶ。同社の強さの秘密に迫った。聞き手/千田直哉(チェーンストアエイジ)

既存店売上高対前期比 10%増で推移!

森克幸
株式会社タチヤ 代表取締役社長
森克幸(もり・かつゆき)
1961年名古屋市生まれ。84年名古屋学院大学卒業。92年タチヤ入社。94年タチヤ常務取締役に就任。2006年タチヤ代表取締役社長に就任。07年食鮮館タイヨー代表取締役社長を兼任。

──低価格戦略を明確に打ち出している大手総合スーパー(GMS)やスーパーマーケット(SM)各社の業績が、今年に入ってから悪化しています。生鮮食品を中心に低価格で販売されているタチヤの現在の状況はいかがですか?

昨年9月のリーマンショック以降、今年の8月ぐらいまで、既存店ベースで売上高対前期比2ケタ増と絶好調で推移しています。ただ、やはり客単価が若干下落する傾向にあります。

 当社はその分を、客数増によってカバーできています。他のSM企業さんの話を聞くと、客数が横ばいで客単価が落ちているため、トータルの売上が下がっている状況にあるようです。苦戦されているお店では、客単価も客数も減っており、単月の売上で対前期比80%台に落ち込んでいるケースも出てきているようです。

──好調を維持できている要因をどのように分析していますか?

当社があまりグロサリーに力を入れていない点が、要因の1つだと思います。SM・GMS各社さんはグロサリーを安く販売し、それにより安売り合戦を繰り広げてしまいました。それが、客数が伸びない中で、客単価ダウンを引き起こしてしまったわけです。

 当社は、他社さんがいくらグロサリーを低価格で販売しようとも、まったく無視しています。グロサリーの安売り合戦に巻き込まれてしまうと、商売がぶれてしまうためです。当社はあくまでも、売上構成比の8割以上を占める生鮮で勝負していきます。グロサリーについては「お客さまがカレールーだけをよそのSMに買いに行かれるのでは手間であり、申し訳ないから置いておこう」という程度の認識です。ただ、もともとグロサリーで儲けなくてもよいという考えですから、グロサリーはサービス品という位置づけで、それなりに安い価格では販売しています。

──生鮮食品部門でどのようにして利益を稼いでいるわけですか? 多くのSM企業は、精肉部門を除けば、赤字に陥っているという状況です。

周辺には有力なSMさんがいくつもあり、そうした企業と競合していくわけですから、同じことをやっていたのではまったく勝ち目がありません。「だったら、他社さんがいちばん嫌がる生鮮食品に力を入れていくしかない」ということで、人も金も時間もすべて生鮮強化に費やしてきました。それが今、生きてきているのかなとは思いますね。

 私が入社した20年前から、青果ではどこにも負けないように、取り組んでいました。その後、青果部門がある程度かたちになったときに、精肉や鮮魚売場が充実していないのではお客さまに満足していただけない、ということから、精肉・鮮魚にも力を入れたのです。現在のスタイルが完成したのは、今から4~5年前です。

──とくに鮮魚部門の赤字に頭を抱えるSM企業さんが多いですが、タチヤさんではどのようにして黒字を出しているのですか?

逆に、どうして鮮魚部門で儲からないのか理解できません(笑)。当社は刺身でも全部短冊での販売だけですから、盛り合わせにして付加価値を高めて販売している他のSMさんに「あなたたちのほうが儲かるでしょう」と言うのですが、「ロスが出る(から儲からない)」と言うのです。私は、ロスが出るのなら、やめればよいのにと思います。

 当社は、ロスは基本的にゼロだと考えていますし、実際にロスは少ないです。他社さんは、ロスを見越して値入れをしていますが、当社ではそれを絶対にやりません。

──ロス分を売価に織り込まない分だけ、他のSMとは価格差が出るわけですね。

ええ。私は、当社のことを支持して買ってくださるよいお客さまに対して、ロス分まで乗せて販売するのは、決して許せない。自分たちの商売の失敗を優良顧客に押し付けているからです。逆に「雨の日と午前中に来店される方はよいお客さまだから、とにかく安く売ってあげるように」と言っています。

 ちなみに、当社では値引きのことをロスとは言いません。宣伝広告費と言っています。100円のものが50円になれば当社が痛い思いをするわけですが、お客さまにとってみれば喜ばしいことなので、これは宣伝広告費ということです。