2011年下期以降、家電販売市場は振るわない。ヤマダ電機(群馬県/一宮忠男社長)の2012年3月期(連結)の業績は、売上高1兆8354億円(対前期比14.8%減)、営業利益889億円(同27.5%減)、経常利益1022億円(同25.8%減)、当期純利益582億円(同17.7%減)と減収減益決算に終わった。しかし、ヤマダ電機は、そんな業績もものかわ、コア事業の家電販売に加え、新しいビジネスモデル創造で新たなステージを目指す。
聞き手=千田直哉(チェーンストアエイジ)

家電販売市場は決して暗くはない

ヤマダ電機社長兼COO(最高執行責任者)
一宮忠男 いちみや・ただお
1955年生まれ。宮崎県出身。83年、ヤマダ電機入社。86年、取締役。87年、常務取締役。88年、専務取締役。92年、副社長を経て、2008年、代表取締役社長就任。

──家電販売の市場は、これまで順風満帆とマーケット規模を拡大してきました。しかし、少子高齢化や人口減少、業界再編など、これを取り巻く環境は激変しています。

一宮 家電販売市場は、エコポイントや地上デジタル放送への切り替え、節電意識の高まりなどの追い風を受けて2011年上期までは順調でした。たとえば、テレビは通常であれば、年間1000万台くらいしか売れないものなのですが、2010年は2300万台、2011年は1600万台を販売しています。しかし、その反動が去年の下期から一挙に出ており、現在の市場は苦しい環境にあります。この特需を含め市場規模は11兆円ほどに及んでいましたが、現在は8兆円ほどに縮小していると私どもは見ています。

 ただ、家電販売にはフォロー要因もあります。たとえば、これまで建築会社や住宅メーカーが販売していた太陽光発電装置やHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)、蓄電池、EV(電気自動車)、省エネ・創エネ・蓄エネ商品、つなげるテレビ(スマートテレビ)やパソコン・携帯電話・タブレットパソコンの連携、LED照明など…。そうした新しい商品群の台頭と拡大を考えれば、マーケットの未来は決して暗いものではありません。

 だからと言って、楽観視もしていません。今家電販売市場は、非常に厳しい踊り場にあると考えているからです。その中で、製造業の再編も進んできました。各メーカーは、「選択と集中」を進め、総合家電メーカーと呼べる企業は少なくなってきました。

──アマゾンドットコムなどを筆頭に、ネットも家電販売のひとつの大きな勢力に育っています。

一宮 確かにそうです。しかし私は、日米のインフラ状況を見誤ってはいけないと思います。米国の場合は、あれだけ広大な土地に家電量販最大手としてベストバイがチェーン展開しているに過ぎません。しかも、その店舗までは、クルマで1時間もかけて行かなければいけない。

 しかし、日本ではヤマダ電機の直営店だけで730店舗以上はありますし、クルマで10~20分も行けば、大概の店舗を訪れることができます。お客さまは、ネットで商品情報を収集して、リアル店舗で購入したほうが有利なのではないでしょうか?

──最近の米国の代表的な消費行動として「ショールーミング」(リアル店舗で商品を確認後、ネットを通じて最安値で買う)がありますが、日本ではそんなことは起きにくいということですか?

一宮 家電製品の場合、同社内で同一商品であるならば大抵の店舗は、ネット価格に合わせるのが普通です。そのときに、リアル店舗かネットかどちらで購入することを選ぶのかと言えば、親身な接客を受けた安心感があり、配達、設置、接続、保証などのサービスをしっかり受けられる──。リアル店舗だと思います。

 また、ネットの場合は、返品するのも一苦労であり、行きつくところ、価格しかありません。その価格についても、いくつかのネットサイトを訪れてみれば、確かに安い商品はありますが、《日替わり》や《限定台数》などが目につきます。それは、当社で言えばチラシ掲載の目玉商品に当たるものに過ぎないと考えています。また、当社は、インターネット上でもチャットを利用した安心価格保証など、店頭と同様のサービスが受けられるのも特徴です。

──そうした考えもあって、これまで店舗網をしっかり拡充してきたのですね。

一宮 そうです。市場規模と特性に合わせて、LABI(都市店)、テックランド(郊外型大型店、小商圏型店)の3つのフォーマットで店舗ネットワークを構築してきました。

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