
ヘブン、建前を覚える?
「先にお伝えしておきますが、先生をこちらにお呼びしたのはこの私です」と山橋がヘブンをかばう。
「お誘いしたのは構いません。お誘いされたのも構いません。ですが、なして。なして、私や家族に内緒で。やはり私や母上の料理が口に合わず、というか、松野家が嫌で?」とトキは疑心暗鬼になっている。
「違います。おトキさんの料理、ママさんの料理。日本やり方好き、松野家やり方大好きです」
「嘘(うそ)嘘嘘。でしたら――」
「But」とヘブンはトキの追及を制す。
「ちょっと疲れた。私、新聞でた。ヘブン小骨好き。ヘブン正座好き。日本人みたい みんな家来る。『ヘブン先生。正座上手 さすが宝』です」
正座が痛くて滞在記が書けなくなってしまったと告白するヘブン。
トキはようやく、ヘブンの気持ちを理解する。
「それで夜中にオーマイガーと」
頬に口紅がついていて驚いたわけではなかったようだ。
「でしたらちゃんと言ってごしなさい。正座、ジゴク。小骨、ジゴク」
「言える、ない。家族やっとできた 家族裏切る できない」
「でしたらちゃんといってそれで通ってくださればいいのに」
「いやでしょう」
「嫌です。めちゃくちゃ嫌です」
「だから 言える ない」
「けど、嘘をつかれる方がもっともっといやです。先生だって言っちょったじゃないですか嘘が嫌いだって」
嘘が嫌いと言っていたヘブンが嘘をついていた。正座好き、小骨好きとみんなの手前言っておくのは、それこそ「建前」だ。
ヘブン、日本人の建前までをすでに身につけてしまった。でもそのせいで、嘘をついてこっそり西洋料理をテーブルと椅子で食べてガス抜きをせざるを得ないところにまで追い込まれてしまったのだ。
「家族だけん。言えないのもわかります。でも家族だけん。やっぱり言ってごしなさい」とトキは一瞬理解を示すも、すぐまた自分の気持ちを押し付ける。
そこに山橋が「ビーフステーキにございます」
トキは「なして今出すかね!」(怒)
山橋はとんだとばっちりである。でも彼のおかげでほぐれたようで、ふたりは互いに謝る。







