「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営・組織の悩みをもとに、坂田氏に話を聞きながら、同書の思想を現在進行形の課題へと引き寄せていく。

出島組織を海外に設けたのに、新規事業が立ち上がりません。なぜうまくいかないのでしょうか?Photo: Adobe Stock

「海外の出島が動かない」
本当の理由とは?

――今回のご相談ですが、最近、同じような悩みを耳にする機会が増えています。率直にどう思われますか?

 まず、この違和感自体は、とても健全だと思います。

 出島組織は、置けば自動的に新規事業が生まれるような万能の仕組みではありません。設計を誤ると、探索を加速させるどころか、挑戦そのものを止めてしまうことすらあります。

――自由にやらせるはずが、逆に動かなくなるというのは意外です。

 よくあるのは、「自由」という言葉が「放任」として解釈されてしまうケースです。本社としては善意で距離を取っているつもりでも、方向性や使える資源、意思決定権の所在があいまいなまま切り離されると、現場は判断ができません。

 特に、村社会的な性質を持つ日本では、本社から離れた組織が構造的に孤立しやすい側面があります。

 その結果、海外に生まれるのは実験の場ではなく、管理も支援も行き届かない「孤島」になってしまいます。

――切り離したつもりが、孤立させてしまっているということでしょうか?

 その通りです。資金や人材が潤沢とは言えない一方で、報告や説明責任だけは求められる。この状態では、現場が慎重になり、動かなくなるのも無理はありません。

なぜ“撤退できない出島”が
現場を疲弊させるのか?

――新規事業であれば、最初からうまくいかない前提でもよい気がします。

 本来は、その通りです。新規事業は、失敗する可能性のほうが圧倒的に高い。だからこそ重要なのは、「始め方」だけでなく、「やめ方」までを設計に含めているかどうかです。

 しかし実際には、そこまで考えられないまま立ち上がるケースが少なくありません。

――多くの出島が、撤退基準が曖昧なまま始まってしまうと。

 まさにそこが問題です。

 特に、役員肝入りで立ち上がった出島組織ほど、「やめる=誰かの失敗」という構図が生まれやすい。

 その結果、成果が出ていないと感じながらも、現場は手を止められず、時間とコストだけが積み上がっていきます。探索のはずが、消耗戦に変わってしまうのです。

――現場としては、かなり疲弊しますね。

 ええ。そして現場から「撤退しましょう」と提案するのは、現実的にほぼ不可能です。

 だからこそ、撤退の決断は、最初から本社が引き取る設計になっている必要があります。

成功した出島に共通する
「3つの覚悟」とは?

――一方で、出島組織が機能している企業もありますよね。

 あります。そうした企業には、明確に共通した前提があります。それは、本社が最初から「自らが担うべき役割」を自覚していることです。

 具体的には、次の3点です。
本社が進む方向性を言語化して示していること
・必要な資源を、途中で揺らがずに渡していること
・うまくいかなかった場合は、本社が責任を持って撤退を判断すると決めていること

 この3つについて、本社が腹を括っているかどうかが、成功への大きな分かれ目になります。

――「自由にやらせる」とは、まったく意味が違いますね。

 はい。これは放任ではありません。現場が自ら考え、動けるようにするための設計です。

 さらに重要なのは、撤退の場面で現場を悪者にしないことです。失敗を経験として整理し、学びとして言語化できる企業だけが、その探索を次の挑戦へとつなげていきます。

出島が「挑戦装置」に変わる条件とは?

――最後に、相談者へのメッセージをお願いします。

 出島組織に本当に必要なのは、「自由」そのものではありません。問われているのは、本社側の姿勢です。

支える覚悟
・やめる覚悟
・失敗を受け入れ、学びとして扱う覚悟

 この3つがそろって初めて、出島は探索のための装置になります。

 どれか一つでも欠けていれば、出島は新規事業を生む場ではなく、単なる海外拠点に終わってしまうでしょう。

――ありがとうございました。大変参考になりました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。