海外M&Aが増え、海外投資家比率が急上昇している昨今。「英語の決算書を読むスキル」の必要性がこれまでと比べてはるかに上がっています。しかし、ただでさえ難しそうな会計用語を英語で読むなんてとんでもない、と思う人も少なくありません。
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今回はその中から、アパレル小売業のInditex(ZARA)とユニクロの比較を紹介します。

なぜZARAの営業利益はユニクロの約2倍も高いのかPhoto: Adobe Stock

海外での成長に固執するユニクロ

 ZARAが1975年に創業し、現在も本社を置くスペインは、人口5000万人弱という、日本の半分にも満たない規模の国です。国々が近接しているヨーロッパ企業ということもありますが、自国外市場への進出は、企業が存続するための創業当初からの不可避な要件であったことでしょう。

 それに比べるとファーストリテイリングは、人口がスペインの2倍を超える日本という巨大市場での勝ち組企業です。なぜそこまでして、ファーストリテイリングは海外での急成長を目指すのでしょうか?

「売上高10兆円を実現すればアパレル世界首位も見えてきます」という問いかけに対して、ファーストリテイリングの柳井会長兼社長は、

「それは分かりませんよ(笑)。『ZARA(ザラ)』を展開するインディテックスが11兆円になるかもしれない。ただ僕は(ファーストリテイリングを)世界一の会社にしたいし、世界一のブランドにしたい。ここだったら安心だな、というブランドになりたいです」
出典:「編集長インタビュー ファーストリテイリング柳井正会長兼社長『大企業にはなりたくない』」『日経ビジネス』2024年10月28日号

と答えています。

 SPA(製造小売業)であるということを除けば、ビジネスモデルは正反対にある両社です。

 トレンド・ファッションを追い求めるZARAに対して、機能に優れたベーシックアイテムを中心とするユニクロ。

 何を作るかは消費者(トレンド)が決めるスタンスのZARAに対して、各年度の商品アイテムを前もって決めるのは自社というスタンスのユニクロ。

 一部の工場は保有する一方で広告は一切打たないZARAに対して、工場は一切持たない一方で広告は積極的に展開するユニクロ。

 多品種少量、売り切れ御免が前提の在庫展開をするZARAに対して、少品種大量、売り切れは起こさない前提の在庫展開をするユニクロ。

 しかし社長がZARAを強く意識していることは、上記のコメントからも間違いない事実なのでしょう

 もはやそれは、ビジネスモデルの優劣を競っているのではなく、優れた異なるビジネスモデルを確立した2社の間で、最終的に財務、非財務面における世界一の企業価値をどちらが獲得するかを競っているようにも思えます。

 現状に絶対に満足されない柳井社長であるからこそ、いまだ売上で2倍、株式時価総額で1.7倍(2025年5月現在)もの差があるZARAを橋頭堡として見上げていたい。そんな切実な思いなのかもしれません。

ZARAとユニクロの
決算数値を徹底比較!

 ZARAとファーストリテイリングの主な決算数値を、図表1に並べてみましょう。

なぜZARAの営業利益はユニクロの約2倍も高いのか図表1 ZARAとファーストリテイリングの主な数値の比較一覧
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 ファーストリテイリングがZARAを上回る(表の右端の数値が1未満)数字は1つもありません。特に売上高(2.0倍)、売上総利益(2.1倍)、営業利益(2.4倍)、純利益(2.5倍)と、PLの下に行くほうが両社の差が開いている事実は、それだけZARAの利益率がファーストリテイリングより優れていることを意味しています。

 販管費には両社互角に売上高の40%弱を使っているので、両社の顕著な利益率の違いは、総利益率の違いがもたらすものであることが確認できます。

 ZARAが頻繁に発する一方で、ファーストリテイリングはあまり用いない言葉に、「ファッション」という用語が挙げられます。ファーストリテイリングは自社の製品をLifeWear(究極の普段着)と定義し、日常生活に欠かせない普段着という定番品に対して、上質さを加えて提供することを基本としています。

私たちの服づくりのコンセプトであるLifeWear(究極の普段着)は、あらゆる人の生活をより豊かにする、生活ニーズから考え抜かれたシンプルで上質な服です。着心地が良く、快適な時間を過ごせる服、資源を無駄にしない服へのニーズの高まりに伴い、世界中でお客様からの支持が拡大していることを実感しています。
出典:ファーストリテイリング 2024年8月期 有価証券報告書

 トレンドを追いかけるファッションではなく、「究極の普段着」なので、流行の当たりはずれに左右されるリスクは低減される一方、価格に対する消費者の目線は厳しさを増します。店舗で観察できる両社の顕著な価格差を鑑みると、約4%ポイントの総利益率の違いは、主にその価格差から生み出されるものと判断できます

 一方で、両社の価格差は4%の総利益率以上に実在していることを考えれば、ファーストリテイリングの商品アイテム数を絞り込んだ自社開発品の大量発注による原価低減は、ZARAをはるかに上回るスケールで実現できているとも判断できるでしょう。

 加えて、ZARAの高速で旬なファッションを旬な間に売り切ることで、過度な値下げや廃棄を発生させない仕組みも指摘すべき事実です。「ファッション=流行に左右されやすく、業績はブレやすい」というリスクを十分に吸収した高水準で安定した利益率と成長率の実現、それを支える同社のSCMの卓越さは際立っています。

 一方で、両社の数値がもっとも近接しているのは、棚卸資産です(表の右端の数値が最小)。売上高はZARAが約2倍上回るにもかかわらず、棚卸資産はほぼ互角の5000億円前後を両社は保有しています。

 ファストファッションで「売り切れ御免」も辞さずに在庫を高速回転で動かすZARAに対して、定番品のライフウェアを在庫切れを起こさずに売り続けるファーストリテイリング。

 旬なファッションは旬な間に買わないと在庫はなくなってしまうという消費者意欲を誘起し続けるZARAと、いつでもどこでも色とサイズのバリエーションを豊富に揃えて巨額の広告宣伝投下によって販促するファーストリテイリング。

 また、巨大なマーケットである米国市場や地理的に近接する欧州で効率よく展開できるZARAに対して、いまや非日本売上比率が過半に達したとはいえ、グレーターチャイナ(中国大陸、香港、台湾)、韓国、東南アジア、オセアニア、さらには欧米へと世界全域に分散して展開するファーストリテイリング。

 こうした戦略や展開地域の違いからすれば、ファーストリテイリングが実質2倍の棚卸資産(売上は1/2なのに、同規模の棚卸資産)を保有するのは必然の結果とも言えます。一方で、同社が取り組むサプライチェーンの改革と、各展開地域内での有機的成長によって、改善されるべき課題の1つとしても指摘することができるのでしょう。