今年も直木賞・芥川賞が発表された。シリーズ累計200万部超のベストセラーでありながら今年も直木賞の候補にも選ばれず、「なぜ?」とファンを嘆かせている人気の小説がある。『成瀬は天下を取りに行く』の「成瀬あかりシリーズ」だ。頭がよくて行動力もあるが変人、そんな小説ヒロインがなぜこんなに愛されるのか。近年の「コスパ・タイパ主義」に逆行する、成瀬あかりの魅力、そしてこの小説の独特なつくりとは?(ライター、編集者 稲田豊史)

累計200万部超のベストセラー「成瀬あかりシリーズ」

 宮島未奈さんの小説「成瀬あかりシリーズ」が、昨年12月刊行の第3作『成瀬は都を駆け抜ける』で完結した。本屋大賞を受賞した2023年刊行の『成瀬は天下を取りにいく』、2024年刊行の続編『成瀬は信じた道をいく』と合わせ、2025年12月時点でのシリーズ累計発行部数は200万部を突破。言わずとしれた令和きってのベストセラーだ。

 内容は、成瀬あかりという一風変わった少女をめぐる連作短編集だ。あえてジャンル分けするなら青春小説。おもな舞台は成瀬が住む滋賀県大津市で、成瀬の中学2年の夏休みから京都大学1回生3月までの出来事が、成瀬「以外」の人たちを語り手として綴られる。

 成瀬は図抜けたハイスペックを持ち合わせた天然不思議少女。一言でいえば、変人だ。

 たとえば、高校の入学式に坊主頭で現れ周囲を驚かせるが、その理由は「人間の髪が1カ月に1cm伸びるかどうかの実験」のため。

 言葉遣いは「礼には及ばない」「貴殿の苦しみはわからない」など、なぜか時代劇風で、相づちは「ほう」。