構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営・組織の悩みをもとに、坂田氏に話を聞きながら、同書の思想を現在進行形の課題へと引き寄せていく。

MBAで教わったフレームワークを埋めても、大した戦略ができないのですが、どうすればいいですか?Photo: Adobe Stock

フレームワークを使っても、
戦略にならないのはなぜか?

――MBAで学んだ3Cや5 Forces、SWOTなどのフレームワークを一通り整理したものの、「結局、何をすればいいのか分からない」と感じる人は少なくありません。この状態をどう捉えればよいのでしょうか?

 原因は、フレームワークの使い方そのものではありません。問題は、戦略をどのような前提で捉えているかにあります。

 かつて、モノづくりが経済の中心にあった時代には、戦略を「静的な計画」として設計することに大きな意味がありました。たとえば、自動車メーカーが海外に工場を建設する場合、数百億円規模の投資判断が必要になります。そのためには、将来を見通した緻密な計画が不可欠でした。銀行や投資家を説得するためにも、数字に裏付けられた戦略が求められていたのです。

 しかし現在は、「コトづくり」、さらには「場づくり」へと、戦略上の重心が移りつつあります。

 この変化により、戦略は「静的な計画」ではなく、「動的な仮説」として捉え直す必要が出てきました。環境変化のスピードが極端に速くなった結果、一つの正解を決めて全員で追いかけるというやり方自体が、もはや機能しづらくなっています。

――では、MBAで学んだフレームワークは、もはや意味をなさないのでしょうか?

 そうではありません。現在は、モノづくり・コトづくり・場づくりが重なり合って存在する状況になっており、戦略が扱う対象が、単一のレイヤーでは捉えきれなくなっています。

 モノづくりやコトづくりのレイヤーにおいては、今でもフレームワークは有効に機能します。

 ただし、「場づくり」のレイヤーでは注意が必要です。なぜなら、バリューチェーンやサプライチェーンをはじめとするフレームワークの多くは、価値の流れや競争関係を直線的・固定的に整理するための道具だからです。関係者が増え、価値の生まれ方が動的に変化する場づくりの文脈では、それだけでは捉えきれない現象が多くなります。

 ここで重要になるのが、世界を単一の構造ではなく、レイヤー構造として捉える視点です。

 自分はいま、モノの最適化を考えているのか、体験や関係性を設計しようとしているのか。どのレイヤーの戦略を考えているのかを明確にすることで、フレームワークも適切に使い分けられるようになります。

 また、いまの時代、戦略は一部の専門家や経営企画部門だけが考えるものではありません。現場が主体的に考え、実行し、その結果をもとに更新していくものです。

 この前提に立つと、トップの役割も変わります。「戦略を決めて現場に落とす」存在から、「向かう方向と制約条件を示し、資源を配分する」存在へとシフトすることが求められています。

フレームワークに代わる、
戦略思考の起点とは

――とはいえ、「フレームワークがないと何から手をつけていいかわからない」という声も多く聞きます。

 このときに鍵になるのが、「視点のデザイン」です。『戦略のデザイン』では、戦略は「視点」「価値」「仕組み」の三つの要素から成り立つと整理していますが、最初に考えるべきは常に「視点」です。

 具体的には、次の二つの問いを自分に投げかけてみてください。

 ・この戦略の先に、誰の笑顔があるのか?
 ・この戦略を実行することで、10年後の社会はどう変わるのか?

 この二つの問いを出発点にすると、誰にどんな価値を届けようとしているのか、そしてそれがどのような変化をもたらすのかという全体像が少しずつ見えてきます。

 日々の業務では、どうしても目の前のオペレーション改善に意識が向きがちです。だからこそ、あえて視点を引き上げ、時間軸を長く取り、俯瞰的に考えることが、場づくり時代の戦略を始めるための第一歩になります。

――動的な戦略を考えても、現場では試行錯誤が空回りしてしまうことがあります。どうすれば実行に移せるのでしょうか?

 ここで重要になるのが、経営側が方向性と制約条件を明確に示すことです。

 現場と経営では、見ている範囲も、考えている時間軸も異なります。

 経営は、中長期の視点で「どの方向に向かうのか」「何を守らなければならないのか」「使ってよい資源は何か」を言語化する役割を担います。

 方向性と制約が明確であれば、現場は自信を持って動くことができます。

 逆に、「何をしてもいい」「自由にやってくれ」といった曖昧なメッセージだけでは、現場は判断基準を持てず、結果として動けなくなります。

 戦略とは、単なる理論や構想ではありません。実行に移せる形を与えて、はじめて意味を持つものです。

フレームワークに頼りすぎる人が
避けるべきこと

――「場づくり」の時代の戦略を考えるうえで、特に注意すべき点を教えてください。

 大きく三つあります。

 一つ目は、目の前に見えている「不」の解消だけに注力してしまうことです。不安や不満、不利益といった分かりやすい問題を解決することに終始すると、構造的な変革には至らず、戦略は途中で行き詰まります。

 二つ目は、市場規模だけを根拠に判断してしまうことです。

 市場の大きさから入るのは一見合理的に見えますが、その時点で多くの競合と同じ土俵に立つことになり、後から独自性を築くことが非常に難しくなります。まずは独自の視点からアイデアを広げ、そのなかで市場性を見極めるという順番が不可欠です。

 三つ目は、どこかに「正解」があると信じて動いてしまうことです。

 場づくり時代には、最初から最後まで動かぬ正解は存在しません。その場その場で最善を尽くし、トップが示したビジョンと照らし合わせながら方向性を調整していく。仮説を立て、試し、修正し続けるそのプロセスこそが、戦略になるのです。

――最後に、これから戦略を作る人に伝えたいことはありますか?

『戦略のデザイン』で提示しているのは、「完成された計画から始める戦略」ではなく、「仮説から動かしながらつくる戦略」です。

 だからこそ、フレームワークに答えを求めすぎないことが重要になります。

 まずは視点を変え、完璧でなくてもいいので小さく実行してみる。そして、その結果から学び、次の一手を考える。その積み重ねこそが、結果として大きな変化につながっていくのだと思います。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。