「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営・組織の悩みをもとに、坂田氏に話を聞きながら、同書の思想を現在進行形の課題へと引き寄せていく。

マッキンゼーが大量リストラしたと聞きました。新卒でコンサルに就職するのはダメですか?Photo: Adobe Stock

コンサルの仕事はなくならない。
ただし「中身」は変わる

――マッキンゼーによる大量リストラの記事を読んで、不安になった就活生は多いと思います。どう受け止めていますか?

 記事をよく読むと、削減の対象となったのはコンサルタントではなく、「バックオフィス」と呼ばれる管理・間接部門が中心だったことが分かります。それをもって「コンサルはもういらない」「新卒で行くのは危険だ」と結論づけてしまうのは、やや短絡的です。

 むしろ、このニュースが示しているのは、仕事の中身そのものが厳しく再定義されているという現実でしょう。

 企業やクライアントが高い判断力や責任を期待し続ける仕事は残る一方で、そうでない業務は、人が担う前提そのものが構造的に見直されている。これは、コンサル業界に限らず、あらゆるプロフェッショナル職で起きている変化です。

――具体的には、どのような基準で仕事が見直されているのでしょうか?

 ここで重要なのが、経済学者フランク・ナイトが区別した「リスク」と「不確実性」です。

 リスクとは、確率が分かり、過去のデータから計算できるものです。

 一方、不確実性とは、そもそも何が起きるか分からない状態を指します。

 生成AIが得意なのは、前者です。過去データをもとに最適解を高速で導く。だからこそ、定型業務や予測可能な作業は、今後さらに急速に代替されていきます。

 一方で、不確実性の中で問いを立て、判断し、その結果に責任を引き受ける仕事は、人に残ります。今回のリストラも、「不確実性を扱わない仕事」が削られただけだと見ることができます。

――では、「コンサル不要論」そのものが間違っていると?

 不要論というよりも、「仕事をどう定義しているか」がズレているのだと思います。戦略を考える、分析をする、資料を作る。こうした作業の多くが、生成AIで代替され始めているのは事実です。

 ただ、仕事は本来、「問いを立てる」「インプットする」「変換する」「アウトプットする」「判断する」というプロセスに分けて考えることができます。

 この中で、生成AIによる代替が急速に進んでいるのは、インプット・変換・アウトプットの工程です。

 一方で、「どの問いを立てるのか」「この状況でどこまで踏み込むのか」「失敗の責任を誰が引き受けるのか」といった判断は、不確実性の領域にあります。

 つまり、仕事が消えたのではありません。価値の重心が、「処理」から「不確実性を扱う力」へと移動しただけなのです。こうした領域の仕事は今後も残りますが、要求される水準は、確実に上がっています。

新卒コンサルにかかる「世界基準の期待値」

――一方で、「新卒でコンサルに行くのは、リスクが高い」という声は根強いです。

 その感覚自体は自然だと思います。

 国内外で難易度の高い案件に数多く取り組んできた立場から言えば、新卒コンサルにかかる期待値は、極めて高いと言わざるを得ません。私のチームのメンバーは、経験値に関係なく、東南アジアの大手企業オーナーや、欧州スタートアップの創業者と向き合うような場面が日常的にあります。

 新卒であっても、「不確実性のある状況で、どう振る舞うか」を最初から問われる。そして重要なのは、その期待値が途中で下がることは、ほとんどないという点です。

 厳しい環境だと感じる人も多いでしょう。

 一方で、世界標準の仕事の進め方や思考の厳密さ、他者を巻き込みながら前に進める力を、20代のうちに身につけられる環境は、そう多くありません。

――伸び悩む人も少なくないですよね?

 はい。そこで差が出るのが、戦略の捉え方です。よくあるつまずきは、「良い戦略を考えたのに、クライアントに実行力がない」と解釈してしまうことです。

 しかし、戦略は実行されて初めて価値を持ちます。実行を「簡単そうな作業」と見なして軽く扱うのは、戦略の本質を捉えきれていない状態だと言えます。

「実行」は難しいからこそ、そこにプロフェッショナルの仕事があります。

正解を配る時代は、もう終わった

――生成AI時代において、コンサルの役割はどう変わっていくのでしょうか?

 誰かが正解を見つけ、それを皆で追いかける時代は終わりました。これからは、現場ごとに最善手を設計し続ける時代です。

 必要とされるのは、「現場型アーキテクト」。

 状況を見極めて問いを立て、関係者を巻き込みながら、試行錯誤を重ねて形にしていく。そのプロセスを支援できる存在として、コンサルの役割は今後も残ります。

 生成AIは強力な道具ですが、「どこへ向かうのか」「どこで決断するのか」を決めてはくれません。そこには、判断と責任を引き受ける人間が必要です。

――では、どんな人がコンサルに向いているのでしょうか?

 環境を所与とせず、自ら変えにいく意志を持てる人です。

 そして、他者を巻き込みながら、アジャイルに試行錯誤を重ねられる人です。

 逆に、「正解は与えられる」「成長は会社が用意してくれる」と考えていると、この業界ではかなり苦しくなります。期待値が高い分、その前提は通用しません。

不確実性を「排除」する戦略は、
もう機能しない

――ここまでうかがっていると、鍵になるのは「不確実性をどう扱うか」だと感じますが…

 その通りです。そしてこの点は、『戦略のデザイン』で一貫して強調しているテーマでもあります。

 従来の戦略論は、不確実性をできるだけ減らし、見通せる世界を前提に計画を立てることを重視してきました。これは「リスク」を扱う局面では有効でした。

 しかし、確率が分からない不確実性に対しては、計画そのものが機能しません。

『戦略のデザイン』では、戦略とは将来を言い当てることではなく、分からない状況の中で、実行可能な一歩を設計し続けることだと捉え直しています。

 構想と実行を切り離さず、実現可能性が見込めるところから着手する。これが、不確実性を前提にした戦略の基本姿勢です。

 アイデアはあるのに、なぜか何も変わらないと感じたときこそ、構想が「正解探し」になっていないか、不確実性から目を背けていないかを問い直す必要があります。

――そう考えると、コンサルという職業も一括りにはできませんね。

 その通りです。これからの時代、不確実性に向き合わないコンサルの価値は、確実に下がっていきます。

 正解らしきものを提示するだけ。過去事例を当てはめるだけ。こうした仕事は、生成AIが最も得意とする領域です。そして実行をクライアント任せにした時点で、プロフェッショナルとしての価値は残りません。

 一方で、問いを再定義し、現場の制約を理解したうえで、実行を前に進める設計を行い、試行錯誤に伴走する。この役割を果たせるコンサルの価値は、むしろ高まります。

 コンサルの仕事がなくなるのではありません。「不確実性を扱わないコンサル」が不要になる。それが本質です。

――最後に、就活生に伝えたいことは何かありますか?

「コンサルに行くかどうか」で考える必要はありません。それよりも、どんなプロとして、どんな不確実性を引き受けたいのかを考えてほしいです。

 生成AI時代においても、期待値が下がらない仕事は人間に残ります。それは、不確実性の中で判断し、実行を前に進める仕事です。

 新卒でコンサルに行くという選択は、安定を得る道ではありません。最初から重い期待値を引き受ける選択です。その重さを理解したうえで選ぶのであれば、得られるものもまた、並ではありません。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。