生成AIの仕組みは
中身が見えない“魔法の箱”

 では、生成AI技術は、「なぜ」そんな上手な応答を可能にさせたのでしょうか。田口先生も前掲書の中でくり返し明言していらっしゃいますし、その他の研究者からも聞かれることばですが、「なんで生成AIがこんなに上手く動くのかわからない」というのが現状における正直な答えのようです。

「上手く動いている理屈がわからない」ことから、生成AIは「ブラックボックス的」とも表現されます。私は生成AIの設計に直接関わっているわけではないので、現場の感触について証言はできないのですが、このような意見をよく耳にすることは確かです。

 私の「生成AIの仕組みはブラックボックスだから怖い」という発言に、「でも、医療の現場でもブラックボックス的な薬ってあるよね」といった反論がなされることがあります。実際その通りで、例えば、全身麻酔薬は、その仕組みが完全に解明されているとは言い難いそうです。

 なぜ意識が消失し、そしてどうして再び戻ってくるのか――神経科学の立場からも、まだ解明されていない部分があると聞きます。それでも医療現場で麻酔薬が安全に使われているのは、訓練を受けた専門家が、これまでの経験知に基づいて、対象者の状態をモニターし、用量や環境を厳密に管理した上で使用しているからです。

 これに対して、生成AIの状況はかなり異なります。その出力のプロセスは極めて複雑で、しかも使用者のほとんどがその仕組みを理解していません。しかも、スマホやタブレットに搭載され、誰でも手軽に使えてしまうのです。

 専門的な知識も訓練もなしに、子どもたちの発達に大きな影響を与える可能性のあるツールを、ブラックボックスのまま触れさせることの危うさは、やはり無視できないと思うのです。

「自然言語には似ているけど、やっぱり異なるもの」、そして、「その仕組みがブラックボックス的であること」に鑑みて、私は生成AIの出力を「ナニカ」と呼ぶことにしています。生成AIの出力が人間言語に似ていることは否定しません。

 しかし、その背後にあるものは人間言語と別ものですし、その出力を生みだしているものが、なぜ現状のような結果を出しているのかは謎なのです。人間の言葉に似ているけれど、その正体がよくわからない『何か(ナニカ)』です。