「遠くがくっきり見える眼鏡ほど良い」――そう信じていませんか。実はその思い込みが、知らないうちに老眼を早めてしまう原因になっているかもしれません。多くの人が無意識に選んでいる“過矯正”の眼鏡やコンタクトが、目に大きな負担をかけているのです。話題の書籍『100歳アイ』(伊勢屋貴史著)から、老眼を招く意外な落とし穴を解説します。

【老眼招き眼鏡とは?】「遠くがよく見えるのが正解」? その常識が老眼を早める落とし穴Photo: Adobe Stock

「老眼招き眼鏡/老眼招きコンタクト」にご用心

 ただでさえ重い負担にあえいでいる目(特に毛様体筋)にさらに負担をかけ、老眼の症状を悪化させてしまう「ある行為」があります。そして、あなたも実はやってしまっている可能性が高いのです。

 それは、遠くが見やすいように調整しすぎた眼鏡やコンタクトレンズを使うこと。私はこれらを「老眼招き眼鏡」「老眼招きコンタクト」と呼んでいます。

「視力が良いことはいいことだ」という価値観のすり込み

 小学校の健康診断で、視力検査をしたのを覚えていると思います。保健室などに並んで、黒いしゃもじで片目をかくして、「右、上、下……わかりません」とやったあれです。多くの同級生が「1.0」の中、それを下回るとなんだか肩身が狭かったり、「1.5」をたたき出す子が現れると「おおーっ」と歓声が上がったり。そんな経験から、日本人の多くは「視力が良いことはいいことだ」という価値観をすり込まれてしまっています。

 あのとき測った「視力」とは、「5メートル向こうにある物の見え方」を表す数値で、「遠くを見る力」といえます。日常生活では近くから遠くまで様々なものを見る必要があるのに、「遠くを見ることの得意さ」ばかりをありがたがるのはちょっと変ですよね。

近視の過矯正とは?

 日用品情報会社「プラネット」が2021年に行ったネット調査(回答数4000)によると、20代以上の実に74.2%の人が眼鏡やコンタクトを使っているそうです。40歳代以下では、その大半は近視用です。

 子どものころからの思い込みもあり、多くの人は眼鏡やコンタクトレンズを作るとき、「遠くがくっきりと見えること」をとても重視します。その結果、遠くを見る力を強くしすぎた眼鏡やコンタクトを選びがちです。眼科の世界では、これを「近視の過矯正」といいます。

 眼鏡やコンタクト(遠近両用でないもの)のレンズは、当たり前のことですが、目の見え方全体を一つの方向に矯正します。多くの人が使う近視用レンズの場合、レンズを通して見ることで、見え方全体を「遠く側」にずらすわけです。

 たとえば眼鏡を作り替える際などにあまりにも遠くの見え方を重視したレンズにしてしまうと、近くを見るためにより大きな調節力が必要になります。つまり、近くの見え方が大きく悪化し、数年後に訪れるであろう「老眼が進んだ目」が現れてしまうのです。

 眼鏡を作る側は当然、過矯正のデメリットを把握しています。しかし多くの患者さんは「遠くが見えるのはいいことだ」と思い込んでいるので、「もう少し控えめの度数にしたほうがいいですよ」と説得しても、残念ながらなかなか納得してもらえません。

 遠くを見る力をアップさせたレンズを通して近くのものを見ることは、いつも苦労が絶えない毛様体筋にとっては新たな苦行です。疲れ目の症状がどんどんひどくなり、小さな文字が見えないという機会が大幅に増え、「あぁ、自分は老眼だ」と落ち込むことになってしまいます。だから「老眼招き眼鏡/コンタクト」というわけです。

「過矯正が過矯正を招く」という負のループ

 過矯正のさらに恐ろしいところは、「過矯正が過矯正を招く」という負のループに陥る可能性が高い点です。

 過矯正のレンズを通すと近くが見えにくくなってしまうので、毛様体筋は必死で膨らみ、引っ張る力を弱めて水晶体がぷっくりとした状態に戻れるようにします。この状態が続くと、毛様体筋は膨らんだ状態で凝り固まってしまい、遠くにピントを合わせるのが難しくなります。

 すると「遠くが見えにくくなった」と感じるので、さらに強い度数のレンズを求めてしまう――。こんな無限ループに陥ってしまわないよう、「遠くが見えるのはいいことだ」という価値観を捨て去る勇気を持っていただきたいと思います。