税務署「この入金は完全にアウト」…“痛恨の振込ミス”が招いた追徴課税の結末
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを著書『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋し、お届けします。

税務署「この入金は完全にアウト」…“痛恨の振込ミス”が招いた追徴課税の結末Photo: Adobe Stock

税務署「この入金は完全にアウト」“痛恨の振込ミス”とは?

 本日は「相続と税務調査」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合った方も多いかと思います。ぜひ参考にしてください。

税務調査は金持ちだけのもの、ではない

「うちは資産家じゃないから大丈夫」と思っていても、相続税の税務調査は“申告額が大きいかどうか”だけで決まるものではありません。国税側は、申告書の数字そのものだけでなく、手元にある各種の資料情報と申告内容のつじつまが合っているか、つまり「申告額が過少に見えないか」「落ちている財産がないか」という観点で見ていきます。「危ない家庭」という言い方をするなら、金額の大小よりも“整合性が崩れている家庭”が危ないといえます。

何をしたら怪しまれる?

 調査対象として浮上しやすい状態の典型は、申告書の財産額や資金の動きが、それまでの生活実態や周辺事情から見て不自然に映るケースです。たとえば、亡くなった方の資産形成や生活水準から想定される財産規模に比べて申告額が小さすぎるように見える、家族名義の口座や証券があるのに原資や管理の説明が曖昧、死亡前後の大きな資金移動の行き先が説明できない、といった「数字が語る事実」と「申告内容」が噛み合っていない状態が重なると、疑問が生まれやすくなります。逆に言えば、申告額が大きくても、財産の一覧と資金の流れが整理されていて説明が通るなら、必要以上に“危ない家庭”になりにくい、という見方もできます。

税務署が許さない「振込」とは?

 もう少し具体的に言うと、預貯金まわりの動きは、調査の場面で非常に説明を求められやすいポイントです。亡くなった方の口座だけでなく、家族側の口座も含めて入出金の流れが見える形になると、たとえば、「多額の現金引出しが続いている」「相続人側の通帳に給与以外のまとまった入金がある」「口座間の移動が多いのに合理的な説明がない」といった点が目につきます。特に、まとまった入金があるのに贈与としての整理や申告がされていない、生活費の支援と言いながら実態は資産形成に回っている、といったズレは、調査の場で論点になりやすいところです。

 そして現実問題として、実地調査は「入れば何か出てくる可能性が高いところ」に寄っていく面があります。国税庁が公表している令和6事務年度の相続税の実地調査では、実地調査件数が9,512件、申告漏れ等の非違があった割合(非違割合)が82.3%とされています。追徴税額合計は824億円です。加えて、文書や電話、来署依頼などで是正を促す「簡易な接触」も積極的に行われていて、令和6事務年度は接触件数が21,969件、追徴税額合計が138億円とされています。こうした数字をそのまま「怖い」と受け取る必要はありませんが、少なくとも、手当たり次第に動いているというより、資料情報の突合や事前整理を踏まえて、効率よく是正していく運用になっていることは意識しておいたほうがいいでしょう。

地域によって、税務署の動きも変わる?

 では、どれくらいの乖離があると調査が入るのか、という話になると、ここは税務署単位の事情も大きい、といえます。あくまでイメージとしては、申告内容と把握情報の差が大きい人が上から並ぶ「乖離の大きい人ランキング」のようなものができて、追加で取れそうなところから、しかも大きく取れそうなところから優先的に当たっていく、という感覚です。

 なので、富裕層の多いエリアと、そうではないエリアで、線引きの感覚は変わってくるという話になります。たとえば東京でも、税務署ごとに“見えてくる案件の性格”は少しずつ違うと言われることがあります。世田谷や玉川のように昔から資産家が多い地域がある一方で、麻布は比較的若い富裕層が多く、高齢の資産家が中心の地域とは顔ぶれが違うという見方もあります。

 また港区や中央区は、1件あたりの規模は大きくなりやすいけれど、そもそもの件数はそれほど多くないかもしれません。「どこが一番」と単純に決められる話ではないといえます。もちろん、こうした点は国税が公式に基準を示している領域ではないので断定はできませんが、実務的には「地域性や現場の事情で、調査の当たり方に差が出ることがある」と捉えておいてください。

結局、どうすればいいのか?

 では事前に何を整えればいいかというと、結局は“説明できる状態”を作ることに尽きます。口座の入出金は「なぜその動きがあるのか」「どこへ行ったのか」を言葉と資料でつなげられるようにしておきましょう。死亡前後の大きな現金移動があるなら、現金として残っているのか、どの支出に充てたのか、相続財産としてどう計上したのかを整理しておくのです。家族名義の口座や証券があるなら、原資は誰のものか、運用判断や管理は誰がしていたか、実質の帰属に沿って申告ができているかを確認します。贈与や生活費の支援が絡むなら、その性質に応じて申告の要否や説明の筋を整えます。ここが曖昧なままだと、調査の連絡が来てから慌てて帳尻を合わせようとしても苦しくなります。

 危ない家庭とは、富裕層かどうかではなく、申告の前提となる事実と数字のつながりが弱い家庭です。そこさえ補強できれば、必要以上に不安を抱え込まずに済むはずです。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)