夏には一緒に海へ行って、クリスマスがあって誕生日があって、冬には今度はスキーへ行く。そんなことを幾ら繰り返したって相手のことなど分かりはしない。なにしろ、自分自身のことすら分からないのだから。ならば自分の直感を信じて進むのみ。もしかしたら、これは親父の言うところの感性の赴くままに行動してしまったのかもしれない。

 とはいえ、僕が40でお相手は28歳。40の初婚男が結婚できる確率は約10パーセントといわれている。ひと昔前なら初老と呼ばれる僕は、謙虚にならなければいけないと友人に諭された。僕は謙虚に結婚にまつわる手順を一つ一つ進めていくことに注心した。

両親に彼女を紹介した席で
親父が放った失礼発言

 まずは、ウチの両親に彼女を紹介する。4回目のデートは両親と食事をすることにした。「今日は実家で夕食を」と彼女に言うと、大事なことを事前に知らせる配慮がないと怒られた。なるほど、突然はマズかったかもしれない。それでも彼女は実家へついて来てくれた。そこには、僕よりも謙虚でもなければ配慮もない人間が待っていた。

 彼女の親父の第一印象は“失礼な人”だったそうだ。なにしろ親父は彼女に向かって開口一番、「28歳か、いい歳だな」と言い放った。親父の物言いに慣れている僕は苦笑するが、彼女が驚いたのも無理はない。40になっても結婚できない自分の息子を棚に上げて、若い女性に向かって何たる暴言。「何なんだ、このおやじ?」と怒るよりも驚いたと妻は言う。今は笑い話で語れるが、嫁と舅のなかなか刺激的な関係の幕開けだった。その光景を何も言わずに薄ら笑いで眺めていた僕は、配慮がないと後でまた彼女に怒られた。

 彼女がいきなり石原家の洗礼を受けても動じなかったのは、医療の現場に立ち続ける医師だからなのかもしれない。皮膚科医の彼女は、陰部を恥ずかしそうにボリボリ掻くおじさんや、マムシに噛まれてしょげかえるおじさんや、薬を塗らずに塗ったと嘘をつくおじさんを日々相手にしていた。