現代の外食は「失敗したくない」という思いから、他人の評価やコスパに縛られがちです。しかし本来、食は自分自身の価値観で楽しむべきもの。話題の書籍『美食の教養』は、イェール大卒・世界128カ国を食べ歩いた浜田岳文氏が、歴史や経済、文化、また作り手であるシェフの視点から「食の本質」を解き明かす一冊。単なるガイド本ではなく、情報過多な時代に「人生をより豊かにするための美食」を提示します。今回はそのエピソードを特別公開します。(ダイヤモンド社書籍編集局)

【世界一の美食家が教える】最高級の和牛で作るよりも、「輸入牛の牛丼」のほうが圧倒的にうまいワケPhoto: Adobe Stock

「A5ランク和牛の牛丼」が
失敗する科学的理由

 料理というのは本当に面白いもので、良い食材を集めたら良い料理ができるかというと、必ずしもそうでないことがあります。

 たとえば、牛丼。最高級の黒毛和牛に最高の米、最高の調味料を合わせたら、最高の牛丼ができるのでしょうか?

 昔、芸能界屈指のフーディーとして知られる寺門ジモンさんと実験したことがあるのですが、最高の和牛を牛丼にすると、牛肉自体が繊細すぎて、パンチが弱くなってしまうのです。

 逆に、質が若干低くて雑味のある和牛や、輸入牛のほうが、牛丼としての完成度は高まったのです。もちろん、最高の和牛を使って牛丼として成立させる方法はありますが、その完成形は、みんなが牛丼として認識しない別物になる可能性が高いと思います。

高級鮨店が「最高の醤油」を使わないワケ

 鮨も同様です。鮨の学校に通って鮨職人としてもデビューしたフーディー兼実業家の本田直之さんから聞いたのですが、ほとんどの鮨屋は米と魚介にはこだわっているけれど、塩や醤油にはあまりこだわっていないそうです。

 それは、良い塩や醤油ほど個性が強いので、握りのバランスに影響を与えてしまう、ということでした。

 つまり、握りの完成度を追求すると、塩や醤油には脇役に徹してもらったほうがバランスが取りやすい、ということかと思います。

 少し方向性は違いますが、たとえばいちごのショートケーキにも同じことがいえるかと思います。

 いちご以外の最高級フルーツを盛り込んだり、スポンジ生地に稀少な古代小麦や米粉を使ってこだわり抜いたとします。それで、ショートケーキとしての完成度は上がるでしょうか?

 実際そういうものを食べたことがありますが、全くそうなっていないことがほとんどです。最上級の食材を合わせれば、最も良いものができるわけではない。

 それよりも、いちごのショートケーキとしての最上級の完成形をイメージし、そこから逆算して必要な食材を揃えるのが本来あるべき考え方だと思っています。

(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田岳文(はまだ・たけふみ)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約128カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から7年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。