日本でも数少ない老眼対策のエキスパートで、話題の書籍『100歳アイ』の著者でもある眼科医・伊勢屋貴史さんにお話を聞きました。
眼鏡やコンタクトの専門家として12万人、「二十四万の瞳」と向き合ってきた経験から「老眼鏡は時代遅れ。今すぐ使うのをやめないととんでもないことに……」と警鐘を鳴らします。
構成:言語化工房
Photo: Adobe Stock
老眼鏡は、はっきり言って前世紀の遺物
――著書「100歳アイ」が話題になっています。読者からはどんな反応が多いですか。
伊勢屋貴史(以下、伊勢屋):老眼についてのイメージががらっと変わった、今までの自分の対策が間違っていたことに衝撃を受けた、といった感想をいただくことが多いです。
老眼に悩んでいた方から、見え方が劇的に改善したという喜びの声もたくさんいただきます。
世の中にはびこる老眼対策の間違った常識を、少しずつでも書き換えられているのはうれしいですね。
――多くの人が「老眼になったら老眼鏡をかけるもの」と考えているわけですが、著書ではそんな常識を強く否定しています。
伊勢屋:ご高齢のみなさんが一般的に使っている老眼鏡は、はっきり言って前世紀の遺物です。
今すぐ使うのをやめた方がいい。いま老眼で不自由を感じ始めている人も、絶対に作らない方がいいです。
なぜなら、老眼鏡は「単焦点」というレンズで、手元のごくわずかな範囲にしかピントが合いません。
手元を見るためにかけ、壁の時計を見るために外し、スマホを見るためにかけ、テレビを見るために外す。多くの人はわざわざ老眼鏡をかけて手元を見ることが面倒になってしまいます。
パソコンやスマホ、本や新聞で情報収集するのがおっくうになり、情報弱者として世の中から取り残されていくのです。
老眼鏡は、あなたを劇的に「老人化」させてしまいます
――それは恐ろしいですね……。
伊勢屋:それだけではありません。老眼鏡は、あなたを劇的に「老人化」させてしまいます。
自分では意識しづらいのですが、老眼鏡をかけたり外したり、時にはどこに置いたかわからなくなって手探りで探したりするしぐさは、とても年寄り臭いものです。
かといって、かけっぱなしにできる程度の度数の老眼鏡では手元を見る力が弱くなってしまうので、細かい文字を見るために腕を伸ばしたり、縮めたりして見え方を調整することになります。
私はこれらの行動を、「老眼しぐさ」と呼んでいます。
どんなに魅力的な人も、どんなに精力にあふれている人も、老眼しぐさが出た瞬間に周囲から老人と認定されてしまいます。
老眼鏡は、老眼しぐさの大きな原因なんです。
――老眼しぐさですか。これを読んでドキッとしている読者の方も多いかもしれません。
伊勢屋:誰だって、必要以上に年寄りに見られたくはないですよね。
本にも書いたのですが、私のクリニックを手伝ってくれていた眼科医も、外した老眼鏡が見つからなかったり、モニターの裏側に入ってしまったり、額にはね上げた老眼鏡のことを忘れてデスクの上やポケットを手探りしたり……といったことがしばしばありました。
どうしてもモタモタした印象を与えてしまい、患者さんからの評判もあまりよくなかった。
ところが、ある日を境に彼のイメージは一変しました。
累進レンズの遠近両用眼鏡のプレゼントで若返った友人医師
――いったい何が起きたんでしょうか。
伊勢屋:私から、累進レンズの遠近両用眼鏡をプレゼントしたんです。
眼科医の仕事は患者さんを問診したり、眼内をのぞき込んだり、パソコンでカルテを入力したりとあちこちを見る必要があるのですが、1本の眼鏡でそれら全てに対応できるようになったことで、彼の動きは見違えるようにきびきびしたものになりました。
老眼しぐさがなくなっただけで、若々しく見えるだけでなく、仕事ができそうにも見えるんですよね。
もちろん、元々いい医師だったのですが、これまでは老眼しぐさで損をしていた。
その後は患者さんからの人気もうなぎ登りでした。
――すごい効果ですね! ところで遠近両用眼鏡は聞いたことがありますが、累進レンズという言葉はあまりなじみがありません。
伊勢屋:累進レンズは、1枚のレンズで近く、中間、遠くなど複数の距離に焦点を合わせることができるのが特徴です。
一般的には遠近両用眼鏡という呼び方をされることが多いのですが、実は手元から2~3メートルの範囲をカバーする「中近両用」や、手元・デスク上の書類・モニターといった範囲に特化した「近近両用」といった眼鏡も作れます。
代表的な使われ方である遠近両用眼鏡の場合、レンズの下の部分に近く用、中央に中間用、上方に遠く用の度数が配置されていて、視線をわずかに移動させるだけで近くから遠くまで自然な見え方を手に入れることができます。
なぜ累進レンズの普及率が日本では低いのか
――そんなに便利なら、もっと広く普及していてもいいように感じるのですが。
伊勢屋:累進レンズは、1959年にフランスで発売されました。
そのせいもあってか欧州では広く使われており、遠近両用眼鏡の普及率はフランスで70%、ドイツやスペインで60%台なのに対し、日本では44%にとどまっています。
私たち眼科医のアピール不足も大きいのですが、一番の原因は、初期の累進レンズが与えた悪い印象が残っていることではないかと思っています。
以前の累進レンズは、レンズ周辺部分の見え方に大きなゆがみがあったり、肝心の度数の変化が自然じゃなかったりして、特に強い度数が必要な方は「かけると酔う」と感じる方が多かったんです。
――以前は、ということは、今の累進レンズは違うんですね?
伊勢屋:はい、全く違います。
レンズ周辺部分の見え方がゆがむのはレンズが球面になっているせいなのですが、現代の累進レンズは片側非球面、あるいは両側非球面という設計にすることで、ゆがみを大幅に改善しています。
また、以前の累進レンズはいわゆる「度数」をレンズの外側に入れていたのですが、それを内側に入れられるようになり、さらに最新の技術ではレンズの両面に入れられるようになったので、近くから遠くまで見え方がとても自然です。
コンピューターで複雑な設計ができるようになった影響が大きく、両側非球面、両面累進という最新の組み合わせの累進レンズは、昔のものとは全くの別物です。
せっかく現代に生きているのに、現代の技術の粋である累進レンズの遠近両用眼鏡を使わないのは、本当にもったいないことなんです。
どんな遠近両用眼鏡を選べばいいのか?
――今すぐ遠近両用眼鏡がほしくなってきました。街の眼鏡屋さんで普通に作れるのでしょうか。
伊勢屋:たくさんあるカジュアルな眼鏡屋さんを含め、ほぼどこでも作れると思います。
気をつけていただきたいのは、値段が高ければ高いほどいい、というものでもないこと。
先ほどご紹介した「両側非球面・両面累進」という組み合わせのレンズはかなり高額になりますが、実は近視や老眼がそれほど強くない人なら、ここまで高性能なレンズを使う必要はありません。
また、本来は強い度数が必要な方でも、いきなり強い度数の累進レンズを使うとやはりふらふらしたり、酔ってしまったりということが起こりかねません。
初めて遠近両用眼鏡を作るときは、老眼の加入度数を「1.25D」以下にするようお店の方にお願いして、比較的低価格な片側非球面のレンズでお試ししてみることをおすすめします。
近視、乱視の度数などご自身の目の状態に合わせてどんなレンズを使えばいいかは、書籍『100歳アイ』で詳しくご説明しています。






