日本でも数少ない老眼対策のエキスパートで、話題の書籍『100歳アイ』の著者でもある眼科医・伊勢屋貴史さんへの特別インタビュー。3回目は「令和の現代病」とも呼ばれ、10代の子どもから高齢者まで日本人の多くがむしばまれているという「スマホ老眼」についてです。健康やパフォーマンスに深刻な影響を与えるといわれていますが、何がそんなに危なく、通常の老眼とはどう違うのでしょうか。
構成:言語化工房
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なぜ「スマホ老眼」は恐ろしいのか?
――スマホ老眼とはどんな症状で、いわゆる老眼とは何が違うのですか。
スマホ老眼の主な症状は「近くの小さな文字が見にくくなる」、「遠くにピントが合いにくくなる」、「目の疲れ、頭痛、肩こり」、「全身の倦怠感や集中力の低下」などで、老眼ととてもよく似ています。
最大の違いはその原因にあり、老眼は水晶体が年齢とともに硬くなることが原因なのに対して、スマホ老眼はその水晶体の厚みを調節する「毛様体筋」の疲れが原因です。
人の目は、近くを見るときは水晶体を厚く、遠くを見るときは薄くすることでピントを合わせています。
毛様体筋は近くを見るときに緊張して膨らむので、近くのものを見続けると毛様体筋が長時間にわたって緊張状態を強いられ、極限まで疲労します。
その結果、近くにも遠くにもピントが合いづらくなり、毛様体筋の疲労が周辺の神経に伝わることが目の奥の重さやだるさ、頭痛、肩こりなどを引き起こし、脳の疲労が全身の倦怠感にもつながります。
――「疲れ目」とは何が違うのですか。
疲れ目のことを眼科では「眼精疲労」と言いますが、広い意味ではスマホ老眼も眼精疲労の一種と言えます。
ですからスマホ老眼になっても、基本的には一晩ぐっすりと眠り、目を十分に休息させることで元の状態に回復させることができます。
ただし、スマホ老眼が恐ろしいのは、スマホそのものに依存性があることです。
スマホに依存すると、「いったんやめればいい」という正常な判断ができなくなる
――依存性というと薬物やたばこ、アルコールなどを連想しますが、スマホにもそれらと同じ危険性があるということでしょうか。
その通りです。
ドーパミンという名前を聞いたことがあると思います。快感や意欲に強くかかわっている脳内物質で、「楽しい」と感じたときや目標を達成したとき、新しい知識を得たときなどに放出されます。
ドーパミンが放出されると快楽を感じるからこそ、人は新しいことに挑戦したり、難しい仕事に取り組んだり、気になるあの人にアプローチしたりする。
つまり人の行動はドーパミンに支配されているとも言えます。
本来、脳内でドーパミンを放出させるにはそれなりの苦労が伴うわけですが、スマホは画面の中だけで、ただ指を動かすだけで、とても手軽に「楽しさ」や「達成感」、「新しい知識を得る喜び」を手に入れることができます。
そのため、多くの人がもっと多くの快楽、もっと強い快楽を求めて、スマホを手放せなくなり、スマホを見続ける時間がどんどん長くなってしまう。
これがスマホの持つ依存性です。
――スマホに依存すると何が起きるんでしょうか。
スマホの画面を見続けて、スマホ老眼の状態になると、見えにくい、頭痛がする、肩がこるなど自分でもはっきりわかる自覚症状があらわれます。
想像してみてほしいのですが、どんなに楽しい趣味をしている最中でも、目が見えにくくなくなったり、頭が痛くなったりしたらいったん中止しませんか?
ところがスマホに依存していると、「いったんやめればいい」という正常な判断ができません。
目がかすんでも、頭が痛くても、画面を見続ける。
その結果スマホ老眼はどんどん深刻になり、一晩目を休めたぐらいでは回復しない状態にまでなってしまいます。
先ほど、スマホ老眼の症状として全身の倦怠感や集中力の低下を挙げました。全身がだるい、仕事や勉強に集中できないという状態が翌日もその翌日も、毎日続くとしたら、それはもう健康な状態とは言えませんよね。
25歳までの若年層に深刻な「スマホ老眼」の弊害
――スマホ老眼が、いわゆる老眼を悪化させてしまうこともありますか。
それはありません。
老眼の原因は年齢を重ねることで起きる水晶体の硬化です。
スマホ老眼の原因である毛様体筋の疲れと、水晶体が硬くなることは全く別のメカニズムです。
ただし、元々老眼だったりかくれ老眼だったりする人にとって、そこに同じような症状のスマホ老眼が加わるのは最悪の事態です。
老眼は本来、時間の経過とともに進んでいくものですが、「老眼+スマホ老眼」の状態になることで、本人の感覚としては一気に数年後と同じレベルまで見え方が悪化してしまう可能性もあります。
――まさに「弱り目にたたり目」ですね……。
もっと恐ろしいのは、子どもたちから25歳ぐらいまでの若年層にとって、スマホ老眼が深刻な近視の原因になることです。
「眼球」と言うように、よく見える目は球体に近い形をしていますが、実は最初からまん丸なわけではありません。
赤ちゃんのころは前後方向に少しつぶれた、オーバーに言うとおまんじゅうのような形をしています。
成長に伴い、ちょうどいい距離にピントが合うよう眼球の形が変化していくのですが、この時期にスマホのように近くのものばかりを見ていると、眼球が近くを見ることに特化して、前後に細長い形に変形し、強度の近視になってしまいます。強度の近視は、網膜剥離などの病気や視神経の障害につながりやすいことがわかっています。近視が進むと25歳ぐらいまで眼球の変形が続くと言われていて、この時期にスマホ老眼になるほどスマホを見続けることは、まさに取り返しが付かない結果を招いてしまうんです。
スマホとの上手な付き合い方とは?
――スマホが怖くなってきました。
とはいえ、現代を生きる私たちにとってスマホは欠かすことができない道具です。
私は20年前と現在で一番大きく変わったのはスマホの出現だと思っています。
スマホさえあれば移動も買い物も仕事も株取引も、何だってできる。
通訳にもなってくれるしAIを使えばすご腕の秘書にもなる。
まさに魔法の杖のような存在で、裏を返せばスマホを使いこなせるかどうかで、人生の質が、あるいは生涯の収入までも大きく変わってしまいます。
ですから大切なのはスマホを避けることではなく、上手に付き合うことです。
――具体的にはどう付き合えばいいでしょうか。
まず、目とスマホは30センチ以上離すようにしましょう。
家にいるときなどに、一度ものさしで目とスマホの距離を測ってみて、距離感を覚えておくといいと思います。
次にスマホと目の位置関係ですが、顔は正面に向けたままで、下目使いで見下ろすように画面を見るようにしてください。
首を曲げるのを防ぐことができますし、まぶたの開き方が小さくなるので目の周囲の筋肉も疲れにくく、目の乾燥も防げます。
目の乾燥を防ぐには、意識的にまばたきを増やすのも有効です。そして、画面を見るのは1日6時間までにしましょう。仕事でもパソコンなどの画面を見続ける人の場合は、さらに短くした方が安心だと思います。
――他に気をつけることはありますか。
スマホ老眼から回復するのに一番有効なのは、しっかりと睡眠を取って目を休めることです。
日本人の平均睡眠時間は先進国で最短といわれていますから、まずは意識して睡眠時間を確保することが重要です。
結果的に、スマホを見る時間を減らすことにもつながります。
スマホ老眼からの回復に私がおすすめするのは、アイマスクです。
寝室には充電中のスマホやエアコンのLED、カーテンから漏れてくる明かりなど様々な光があります。
まぶたはとても薄いので、目を閉じていてもそれらの光が目に届き、寝ている間も目が反応してしっかりと休むことができません。
アイマスクをすることで完全な暗闇で寝ているのと同じ状態を作り出すことができますし、寝ている間にまぶたが少し開いても乾燥を防ぐことができます。
100円ショップでも手に入るお手軽アイテムですが、効果絶大ですのでぜひお試しいただきたいですね。






