HPVワクチンの男性への定期接種は実現するか?先行する豪では子宮頸がん撲滅も見えてきたPhoto:PIXTA

 HPV(ヒトパピローマウイルス)は子宮頸がん、肛門がんや尖圭コンジローマの原因ウイルスだ。主な感染経路は性行為で、性交経験がある男性の約91%、女性の約85%が一生に一度は感染するといわれている。

 40~50代の男性に多い中咽頭がんの発症に関連することもわかっており、男女の別なく警戒すべき代物だ。

 HPVには200種類以上の型があり、がんの発症に関与する「ハイリスク型」については感染を予防するワクチンが開発され、140以上の国と地域で公的接種が実施されている。

 日本ではようやく2022年にハイリスク型2種類の感染を防ぐ2価ワクチン、同じく4種類に対応する4価ワクチンが定期接種化された。翌23年4月には9種類のハイリスク型への感染を予防する9価ワクチンも定期接種として公費で受けられるようになった。

 定期接種は「予防接種法」に基づき、対象者全員が受けるべきだとされるワクチンのこと。生後2カ月目のワクチンデビュー(基本的に5種混合、小児用肺炎球菌、B型肝炎、ロタウイルスワクチン)から始まる小児期感染症対策の“大トリ”として、パートナーとの関係や、妊娠、出産など、これからの「人生の選択肢」を守るワクチンを接種するわけだ。母子健康手帳の予防接種の記録ページにもHPVワクチンの欄が設けられるようになった。

 ただし、26年2月現在、定期接種の対象は小学校6年~高校1年相当の女性のみ。20年の4価ワクチンに続き、昨年の夏に9歳以上の男性に対する9価ワクチンの接種が承認されたにもかかわらず、費用面から男性の定期接種に対する行政の態度は及び腰で、議論は頓挫している。

 女性の定期接種のみでHPVの集団免疫が成立するには、少なくとも50~60%の接種率が必要だが、女性の接種率は40%前後で伸び悩んでいる。これをカバーしつつ、男女公平にHPV関連疾患を予防するには、性の区別がないgender neutralな接種が望ましい。

 実際、世界に先駆けて接種を実施したオーストラリアでは、すでに子宮頸がんの撲滅が視野に入っており、HPV関連中咽頭がんの発症率減少も期待されている。10年後、20年後、日本は議論を先送りした結果と向き合う。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)