移動経験によって成功するのは
あくまで“高スキル”の移民だけ

 こうした研究成果から、何が見えてくるだろうか。一見すると、「国境を越えて移動する移民は成功者になりやすい」と読めるが、そこに共通しているのは「移動は高度人材のアントレプレナーシップ(起業家精神)を高揚させる」という点である。「移動を経験した高度人材は機会を認識する能力が磨かれている(Saxenian:2006)」といった成果はその象徴であるが、移動経験によって機会の認識能力が磨かれ、アントレプレナーシップが向上し、イノベーションが活発になるという説明が成立するわけである(安田:2013)。

 ただし、紹介したうちいくつかの研究は、すべての移動がアントレプレナーシップやイノベーションと関連するわけではないことを、はからずも教えてくれている。

 何度も登場する「高スキルの移民」「高度人材」という言葉が示すように、移民の中でも専門性や能力がもともと高い人々を前提に調査や議論が行われているケースが少なくないからである。つまり、「移動はアントレプレナーシップを高める」というより、「移動は“高度人材”のアントレプレナーシップを高める」のであり、「移動がイノベーションを生み出す」というより、「移動が“高度人材”のイノベーションを生み出す」のである。

移動が生み出すネットワーク資本は
社会的不平等を再生産する

 そうなると、なぜ高度な専門性やスキルが、「成功」への移動の効果を高めるのだろうか。移動自体はもちろん重要だが、移動から生まれる“何が”成功の可能性を高めているのだろうか。ここで鍵を握るのが、「ネットワーク資本」である。

 ネットワーク資本とは近くにいる人だけでなく、「必ずしも近くにいない人々との社会諸関係を生み出し維持する力」(Urry:2007)である。ネットワークを活用し、インターネット上の情報から得た知識を活用したり、オンラインの関係を作って維持したり、必要な資源を得るための友人と友人との間接的なつながりも含めたオンライン・オフラインのつながりを指す言葉である。