リモートワークの定着でオンライン会議が激増した昨今、「この会議、本当に意味があったのか」と感じた経験のある人は少なくないだろう。発言者が偏り、声の大きい人の意見だけで物事が決まる――そんな非生産的な会議のあり方を根本から変えるヒントが、『ワークハック大全』に詰まっている。本記事では、世界18ヶ国で刊行された本書のメソッドから、会議の質を劇的に高める「黙読アプローチ」を紹介していく。

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パワポが会議をダメにする

 近年、ChatGPTやGeminiをはじめとする生成AIツールが会議の議事録作成や要約に活用され、大きな話題を呼んでいる。

 だが、どんなに便利なツールを使っても、会議そのものの質が低ければ、そこから得られるものは何もない。

 本書によると、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、株主への手紙の中でパワーポイントの使用禁止を宣言している。

 代わりに用いるのは6ページの文章ドキュメントだ。この文書は箇条書きではなく「文や動詞、名詞がある文章」で構成されているという。

アジェンダに従って行う会議も、得てして最もそのテーマについてよく知っている人ではなく、最も自信を持って話す人にとって有利に働くものだ。(『ワークハック大全』より)

 しかもこの文書は、会議前に配布されない。事前に配ってしまうと、参加者はざっと流し読みをして「読んだふり」をするからだ。

 会議の冒頭で全員がテーブルを囲み、まるで自習室のような静けさの中で文書に目を通す。著者によると、この黙読は通常30分ほどかかるという。

「集団的知性」を左右する条件

 では、なぜ全員で黙読してから議論すると成果が出るのか。

 本書では、カーネギーメロン大学、MIT、ユニオンカレッジの研究チームが約700人を対象に行った「集団的知性」の実験が紹介されている。創造的思考や論理的課題、交渉など、思考のさまざまな側面を測定する課題が与えられた。

 この実験で明らかになったのは、驚くべき事実だった。個人の知性は、集団の成果に直結しない。際立って頭の良いメンバーがいても、それだけではグループの成功は保証されなかったのだ。

重要だったのは、メンバー同士のコミュニケーションの方法だった。失敗したグループは、1人か2人のメンバーが主導権を握っていたが、成功したグループは民主的で、全員が同程度に意見を述べていた。(『ワークハック大全』より)

 研究を率いたアニタ・ウィリアムズ・ウーリーによると、成功するグループに共通していたのは「社会的感受性」の高さだった。

 メンバーが互いの非言語的な反応を読み取り、相手の考えを察知して行動する能力が、集団の知恵を引き出す鍵だったのである。

 自信満々のメンバーが他人を威圧するような発言をしたり、萎縮したメンバーが発言を控えることで良いアイデアが失われたりするリスクはなかったという。

 一人の天才に頼るのではなく、全員が対等に意見を出し合うチームこそが最も賢い判断を下せる――いわば「三人寄れば文殊の知恵」を科学が証明した形だ。

全員が発言する会議をつくれ

 ウーリーの研究チームは、こうした状態を創造的な貢献が「爆発した」状態だと表現している。

全員が議論に貢献でき、自分の貢献が歓迎されることも知っている。みなポジティブ感情の状態にあり、心理的安全性を味わっている。そこには、紛れもないバズの感覚がある。(『ワークハック大全』より)

 全員が安心して発言でき、自分の意見が歓迎されると知っている。心理的安全性のある場こそが、チームのパフォーマンスを最大化するのだ。

 ベゾスが導入した会議前の「黙読タイム」は、まさにこの条件を整えるための仕掛けだといえる。

 パワーポイントのプレゼンやアジェンダ中心の進行をやめ、全員が熟考する時間を設けることで、会議は平等な議論の場へと変わっていく。それはウーリーらが発見した集団的知性の強力な推進力を引き出すアプローチなのだ。

会議で良い意思決定と問題解決をするためには、活発な議論が欠かせない。それを達成できないのなら、その会議は開催する価値がないのだ。(『ワークハック大全』より)

 まずは次の会議から「冒頭10分の黙読タイム」を試してみるだけでも、議論の質は変わってくるだろう。

 著者が述べるように、良い会議とは全員が参加する会議であり、全員が準備をして自信を持って議論に貢献できるようなものにすべきだ。

「なんとなく集まる会議」から「全員が考え、発言する会議」へ――それこそが本書の教えるシンプルで強力なワークハックである。