誰と働くかで、チームの成果は驚くほど変わる。
『ワークハック大全』では、職場に活気と創造性をもたらす科学的手法を紹介している。その中でも注目すべきは、「多様性がチームのパフォーマンスを高める」という研究だ。異なる視点を取り入れることは、快適さよりも価値を生む。本記事では、世界18か国で刊行された本書の「学習メソッド」から、多様性がもたらすチームの強さを紹介していく。
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「似た者同士の安心感」がチームを弱くする
人は本能的に「自分と似た人」を好む。
考え方や趣味が近い相手と働けば、衝突も少なく、快適に過ごせる。
しかし本書は、この「心地よさ」がチームにとっての落とし穴になると警鐘を鳴らしている。
アメリカの大学で行われたある実験では、男子寮の学生たちに殺人ミステリーの事件資料を読ませ、犯人を推理させた。
まず学生たちは「20分間個別に資料を読み」、その後、「同じ寮に住む2人組で20分間議論」を行う。議論が始まって5分後、研究者は2つのパターンに分けてメンバーを追加した。
1つは同じ寮の学生を加えるパターン、もう1つは全く面識のない他寮の学生を加えるパターンである。
すると結果は驚くべきものだった。同じ寮の学生だけで構成されたグループの正解率はわずか29%、部外者が加わったグループは60%と2倍の差が出たのだ。
しかも、内部メンバーだけのチームのほうが議論を「楽しかった」と感じ、自分たちの結論にも自信を持っていた。
つまり、「心地よさ」と「正しさ」は必ずしも一致しないということだ。
異なる視点を取り入れることは、とても重要だ。そうしなければ、グループは「長いものには巻かれろ」式の怠惰な集団思考に陥りやすくなってしまう。(『ワークハック大全』より)
会議で同じメンバーばかりが発言していると感じたら、あえて外部の人や異なる部署のメンバーを招くのが効果的だろう。
異なるバックグラウンドの人が入ることで、議論は時に不快になる。
しかし、その「摩擦」こそが創造性を引き出すのだ。
多様性のある企業ほど成果を上げている
「多様性」と聞くと、ジェンダーや国籍の話だと思われがちだが、それだけではない。
本書では、異なる価値観や経験を持つ人を組み合わせることこそが、良い判断や成果を生み出すカギだとする。
特に印象的だったのは、人種や民族の多様性が上位25パーセントの企業(平均より35パーセント高い収益率)と、ジェンダーの多様性が上位25パーセントの企業(平均より15パーセント高い収益率)だった。(『ワークハック大全』より)
マッキンゼー社の調査でも、ダイバーシティが高い企業ほど利益率が高いというデータが出ている。
つまり、多様性は「正しいこと」ではなく、「成果につながること」なのだ。
日本でも、リモートワークの進展で、チームの柔軟さがこれまで以上に求められている。
チームづくりの際には、「波長が合う人」だけではなく、「違う強みを持つ人」を意識的に選ぶことが重要だろう。
異なる視点が進化を生む
哲学者ジョン・スチュアート・ミルは150年以上前に、こう言っている。
自分とは似ていない人々とつきあい、慣れ親しんだものとは違う考えや行動様式に触れることの価値は、これ以上ないほど大きい。(『ワークハック大全』より)
これは、SNSで「同じ意見の人」ばかりをフォローして安心している現代人にも当てはまる言葉だ。違いを受け入れる力こそ、変化の時代を生き抜く武器である。
本書が教えるのは、気の合う仲間だけでなく、「自分とは違う誰か」と働く勇気だ。
その出会いが、あなたのチームに新しい可能性をもたらすだろう。







