「お願いだからやめましょうよ。中東が全部燃えちゃう核開発とか怖いから。その代わりに西側は経済制裁をやめます」

 これが国連安保理にドイツを加えた6カ国協議とイランとの核合意です。

 ところがトランプ政権は、「それってなんの話?俺は知らんし」と離脱してしまいました。こうした経緯で、イスラエルと米国が「不倶戴天の敵」と思っているイランは、軍事的脅威を増しています。

 国内の統制も厳しく、2022年に「スカーフで適切に髪を隠していなかった」と、警察に拘束されたマフサ・アミニ氏は警官に暴行を受けて死亡。各地で抗議デモが起きています。女性の人権を求めてノーベル平和賞を受賞したナルゲス・モハンマディ氏は、今も拘束されたままです。

 事実上、政権交代がないというのも、イランの自由のない事態を絶望的にしています。イランは共和制で国民の直接選挙によって大統領が選出され、一院制の議会には“保守派”や“やや改革派”など複数の政党がありますが、これらを全てコントロールするのが宗教的最高指導者ハメネイ師

 シーア派には古来、指導者として11人のイマームがいて彼らの話し合いで政治が行われてきました。「12人目のイマームはどこかにお隠れになっていて、いずれ現れたのちにイスラム共同体が造られる」という考えがあるのです(なお、シーア派の中にも多数の宗派があります。スンニ派においてイマームはもっと一般的な指導者の意味に使われます)。

 現在の最高指導者ハメネイ師は、イラン革命の指導者ホメイニ師の死後1989年に専門家会合で選出されました。イスラム教のウラマー(法学者)でもあり、シーア派における“イマームの代理人”で、大統領より遥かに偉い国家の最高権力者。ウラマーですから、司法も彼が握っています。ちなみに宗教指導者の任期は「その人が生きている限りずっと」です。

 ハメネイ師は80代半ばと高齢であり、いずれ“任期の終わり”は来るでしょう。しかし次の最高指導者はウラマーの話し合いで指名されると決まっています。初代最高指導者ホメイニ師が1989年に亡くなってハメネイ師に代わったときのように、何の変化もなく最高指導者による支配は続いていくはずです。

 選挙で選ばれた大統領もハメネイ師に逆らうことはできません。

 抗議運動も起きているので「イランが変わることはない」とは言いませんが、現体制は強固であり、今の段階では体制が崩れて新たな政党が現れる可能性は、少ないでしょう。

『教養としての世界の政党』書影山中俊之『教養としての世界の政党』(かんき出版、2024年7月29日発行)
山中俊之さんのプロフィール